(五)止まる保証
◆ 消耗戦
光の精霊王が、さらに二度光を放った。
一本は収束して岩を切り、もう一本は細く散って湖面と岸へ広がる。
地面が焼け、水が持ち上がり、その横では新しい草が伸び始めた。
それでも出力は落ちていない。
「さっきから同じ強さだ」
セトが言う。
「むしろ、少し強くなっているかもしれません」
ネアが四枚の翼を見る。
「この地域には、あの精霊王が何度も流した原光が残っています。それまで回収しているなら、活動範囲を広げるほど取り込める力も増えます」
「自分でぐちゃぐちゃにして、そこからまた集めてる?」
「可能性は高いです」
焼かれた植物も、異常成長した草木も、移動した川も、隆起した大地も、光の精霊王が流した原光の影響を受けている。
その土地全体が、再び力を集める場所になりつつあった。
「待って力切れを狙うのは?」
シアの問いに、セトは首を横へ振る。
「こっちが先に減る」
シアの分霊核は撃てば蓄えを使う。
ネアも光を曲げれば消耗する。
セトは黒刃で受け続ければ、身体側の安全制御が先に働く。
一方で相手は、撃ちながら補充している。
「長引かせるほど不利ですね」
ネアの結論に、二人とも反論できなかった。
逃げ回って撃たせるだけでも、地形の破壊は続く。
相手を減らすための時間が、そのまま周囲の被害を増やす時間にもなる。
◆ 止まる保証
セトは湖の中央に浮かぶ白い人影を見る。
今のところ、その姿は人間と大きく変わらない。
だが、四枚の翼は休まず周囲から原光を取り込み続けている。
「取り込んだ分は、全部すぐ使ってるのか?」
「分かりません」
ネアは翼へ集まる流れを追う。
「放出した量と、取り込んだ量が常に同じとは確認できません。使わず内部へ残している分があっても不思議ではありません」
「溜まってる?」
シアが白い人影を見る。
「それなら、ずっと吸い続けたらどうなる?」
「出力が上がるだけとは限りません」
ネアは少し考えてから続けた。
「精霊王の身体が、どこまで今の大きさへ固定されているのかも分かりません」
「形まで変わる?」
「推測です」
ネアは先に線を引く。
「力が増えれば、身体や翼が今より大きくなる可能性もあります。逆に、形は変わらず出力だけが上がるかもしれません」
「どっちにしても、今のまま止まる保証はないか」
セトが言った。
「はい。今の大きさ、今の強さが上限だと考える理由はありません」
まだ巨大化した兆候を確認したわけではない。
あくまで、現在の機構から考えた可能性だ。
人の形を保つこと自体が、必要な条件なのかも不明だった。
そこまで含めて、現状は何も固定されていない。
「待って確認するのはなしだな」
「賛成」
シアが即答した。
◆ 一度だけ
「一度、攻撃してみる」
シアが言った。
「倒すためではありませんね」
「翼の動きと、避け方を見る」
ネアの確認に、セトが答える。
「何発も撃つ必要はない。分かったら終わりだ」
「分かった」
シアが右手を光の精霊王へ向けた。
二個の赤い分霊核が、本人を挟むように左右へ離れていく。
「三つで追う?」
「一度に撃つな」
セトが言う。
「最初で動かして、次を移動先へ置く。それで十分だ」
「なら三回」
シアはすぐに組み立てた。
自分が一射目。
右の分霊核が二射目。
左の分霊核が三射目。
倒すための連続攻撃ではない。
どの程度自由に方向を変えられるのかを見るための三回だった。
「ネアは流れを見てくれ」
「分かりました」
セト自身は黒刃を残す。
光の精霊王が反応して撃ち返してきた場合、逃げ道を作るためだ。
シアは二個の分霊核の高さも変える。
一個は人影より少し上。
もう一個は湖面に近い位置。
左右だけでなく上下にも逃げ道を作らせるためだ。
「逃げ方が同じなら分かりやすいけど」
「同じでない方が、確認できることは増える」
セトはそう返し、白い人影から目を離さなかった。
「行く」
シアの掌へ火が集まった。
※第42話「四枚の翼」は全七回です。
続きます。
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