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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第41話 混沌の光

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(七)選ばない光

◆ 呼びかけ


「光の精霊王!」


 シアが声を張った。


 白い人影は動かない。


「聞こえるか!」


 返事はない。


 人影の周囲へ光が集まり、細い線となって遠くの地面へ落ちる。

 岩場が白く焼けた。


 その隣では、地面が盛り上がり始める。


「私たちは、あなたを止めるために来ました」


 ネアも呼びかける。


「このまま力を流し続ければ、人間も生態系も残りません。言葉が理解できるのなら、力を止めてください」


 白い人影は、何も答えない。


 声が届いていないのか。

 言葉を理解していないのか。

 理解したうえで無視しているのか。


 何一つ分からなかった。


「役割名なら?」


 セトがネアを見る。


 ネアは少しだけ間を置いた。


「試す価値はあります」


 シアが白い人影へ向き直る。


「ミトラ!」


 光の精霊王の役割名。

 代が変わっても変わらない名前。


「ミトラ! 聞こえてるか!」


 反応はない。


 人影の近くから、また白い光が外へ走った。

 三人とは違う方向だった。


「名前でも駄目か」


 セトが言う。


「反応しないということしか分かりません」


 ネアは慎重に答える。


「聞こえていないのか、理解していないのか、自分をミトラだと認識していないのか。それとも、分かったうえで反応する必要を感じていないのか」

「どれも見分けられない?」

「はい」


 呼び方を変えても、答えは返らなかった。


◆ 王と呼べるもの


「これまでの王は、間違っていても話はできた」


 セトが言う。


 樹の精霊王にも、氷の精霊王にも、自分の役割を実行する理由があった。

 現在の世界へ合っていないだけで、本人なりの正しさがあった。


 止めようとすれば反論した。

 自分が何をしているのかを説明した。

 こちらを邪魔する相手として認識することもあった。


「こいつには、それが見えない」

「次代の精霊王の中でも、原初へ近すぎるのかもしれません」


 ネアは白い人影から目を離さない。


「個として考える前に、役割だけが動いているように見えます」

「役割だけの王?」


 シアが尋ねる。


「王と呼べる個が、どこまで残っているのかも分かりません」


 目の前には人の形がある。

 力の放ち方にも違いがある。


 それでも、そこに誰かがいるという感覚が薄い。


 セトは白い人影を見る。


「でも、何も考えてないって決めるのも早いな」

「はい」


 ネアが答える。


「分からないことと、存在しないことは別です」


 自我が見えない。

 だから自我がない。


 そこまで決める材料はない。


 ただ一つ確かなのは、呼びかけによって今の行動が止まらなかったことだった。


◆ 選ばない光


 白い人影が、初めて動いた。


 ゆっくりと向きを変える。

 顔があるはずの場所が、三人の方へ向いた。


「気づいた?」


 シアが身構える。


「分からない」


 セトは右手へ白刃、左手へ黒刃を作った。


 光の精霊王の周囲へ、原光が集まる。

 先ほどまでよりも大きい。


 湖の水面が白く照らされる。

 岩場の亀裂から芽が出る。

 芽が伸びるより先に、別の場所が焼け始めた。


「来ます」


 ネアの周囲へ黒い線が広がる。

 シアの両側へ、二個の赤い分霊核が浮かんだ。


 だが、光の精霊王には怒りも、警戒も見えない。


 三人を敵として認識した様子もなかった。

 呼びかけへ腹を立てたようにも見えない。

 近づいた三人を排除しようとしていると判断できる反応もない。


 次の光を放つ先に、たまたま三人がいる。

 その程度の違いしかないように見えた。


「敵意がない」


 セトが言う。


 一瞬だけ、シアが白い人影を見る。


「敵意がないのに撃つ?」

「敵じゃないから撃たない、もないんだ」


 セトは黒刃を少し前へ出した。


「人がいるから避けるもない。自分が作ったものだから残すもない」

「生きているかどうかも選ばない」


 ネアが続ける。


「作ることと壊すことも、おそらく分けていません」


 敵意がない。


 だから安全なのではない。


「だから、止まる理由もない」


 白い光が膨れ上がる。


 生み出すことも、壊すことも選ばない。

 人がいる場所と、いない場所も選ばない。

 生きているものと、ただの岩も選ばない。

 自分が今作ったものと、ずっとそこにあったものさえ選ばない。


 すでに存在する世界と、これから作る世界を区別しているようにも見えない。


 世界がまだ何も決まっていなかった頃のように、すべてを生み、すべてを壊し続ける。


 収束させることもある。

 散らすこともある。


 だが、その先に何を残すかは選ばない。


 混沌の光が、三人へ向かって放たれた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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