(五)二つの光
◆ 空になった村
夕方前、三人は小さな村へ着いた。
人の気配はない。
家の扉は開いたままになっている。
荷物を運び出した跡があり、家畜も残されていなかった。
「避難はできたみたい」
シアが周囲を見回す。
村の中央には、大きな樹があった。
幹の片側は黒く焼け、反対側からは新しい枝が何十本も伸びている。
枝同士が絡まり、家の屋根を押し上げていた。
セトは一軒ずつ中を確認する。
誰もいない。
最後の家では、床へ置かれた穀物袋が破れていた。
袋の中の種がすべて発芽し、白い根が床板の隙間へ入り込んでいる。
「ここまで逃げ遅れた人はいない」
セトが外へ出た。
「でも、戻れる場所でもない」
シアが村を見る。
焼けた家。
新しい枝に持ち上げられた屋根。
地面から斜めに突き出した井戸。
崩れてはいない。
残っているとも言いにくい。
「壊したいわけでも、残したいわけでもない」
セトが言う。
「どちらにも見えませんね」
ネアが答えた。
「生まれることと、壊れることを区別していないように見えます」
シアは発芽した種を一つ見つめる。
「人が食べるために置いた種かどうかも関係ない」
「おそらくは」
人間の村だから避けたわけではない。
人間の村だから壊したわけでもない。
そこに物質と原光があった。
力が流れた。
結果が起きた。
今まで見たものを並べると、それだけに見え始めていた。
◆ 音のない一撃
空気中の原光が、急に一方向へ引かれた。
セトは村の外へ目を向ける。
白く染まっていた空の下。
遠く離れた一点へ、周囲の力が集まっていく。
「伏せろ!」
三人が地面へ身を落とした。
白い線が、村の上を通過する。
音はなかった。
風も起きない。
光が通り過ぎた後で、村の背後にあった岩山がゆっくりとずれた。
山の上部が斜めに切れ、そのまま崩れ落ちる。
少し遅れて地面が揺れた。
「今のが収束した光です」
ネアが立ち上がる。
「攻撃?」
シアが光の来た方向をにらむ。
「そう見えます。ただ――」
再び光が集まった。
今度は一本ではない。
白い光が上空へ広がり、そこから無数の細い線へ分かれる。
「散る!」
ネアの周囲へ黒い線が走った。
細い光の進行方向が曲がり、村の外へ逸れる。
シアは炎で横へ跳んだ。
セトは左手へ黒刃を作る。
避けきれなかった一本が、黒い刀身へ触れた。
光が崩れ、原光へ戻る。
黒刃の周囲へ白い粒子が散った。
セトはそれ以上受けず、すぐに位置を変える。
細い光は、人のいない家も、空き地も、遠くの森も、区別なく貫いていく。
◆ 二つの光
散乱した光が止まる。
セトは黒刃を消した。
左手へ向かう原光の流れは、身体へ入る前に止まっている。
昨日確認した安全制御も働いていた。
「最初のと今の、同じ攻撃?」
シアが尋ねる。
「元の力は近いです」
ネアが遠くの岩山と、村の周囲を見比べる。
「最初は一方向へ集めています。一点へ通す量が大きい」
「今のは?」
「広く分けています。一つ一つは先ほどより小さいですが、避ける場所そのものが減ります」
セトは、光が通った跡を見る。
一本の光は岩山を切った。
細い光は広い範囲へ散り、村と森を同時に貫いた。
「使い分けてるのか」
「少なくとも、同じ放ち方ではありません」
「じゃあ考えてる?」
シアの問いに、ネアはすぐ答えなかった。
「それだけでは判断できません」
「でも、一つに集めるか散らすかは違う」
「はい」
ここまでの変化は、すべて無秩序に見えた。
それでも、力の放ち方には違いがある。
収束させることもできる。
広く散らすこともできる。
「問題は、どこへ撃ってるかだな」
セトが言う。
最初の一撃は、三人ではなく村の上を通り、遠くの岩山へ当たった。
二度目は広範囲へ散り、三人にも飛んできた。
だが、三人だけを追ったわけではない。
「技みたいな違いはあるのに、相手を選んでない?」
シアが言う。
「そう見えます」
ネアが答えた。
単純に力を垂れ流しているだけなら、すべて同じ形で放たれても不思議ではない。
だが、現実には収束と散乱がある。
それでも、何のために使い分けているのかは分からない。
分かることが一つ増えた。
同時に、分からないことも増えた。
※第41話「混沌の光」は全七回です。
続きます。
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