(四)動く世界
◆ 動く地面
低い振動が、足元から伝わった。
「止まれ」
セトが言った。
三人が足を止める。
前方の地面へ、細い亀裂が走った。
亀裂は一度右へ曲がり、そこから三つに分かれる。
「左へ移る」
セトが走った。
シアとネアが続く。
直後、先ほどまで三人が立っていた地面が沈んだ。
穴が開いたのではない。
周囲を含めた広い範囲が、そのまま下へ落ちていく。
土が割れ、岩が擦れ、遅れて大きな音が響いた。
落ちた場所へ、別の地面が横から押し出される。
「今度は上がる!」
シアが叫ぶ。
前方の地面が盛り上がった。
セトは右手へ短い白刃を作る。
刀身へ流す原光を抑え、余った力を脚へ回した。
盛り上がる地面を蹴り、斜め前へ跳ぶ。
着地する直前、脚へ流していた原光を抑える。
足場へ衝撃を逃がし、そのまま前へ走った。
行く手を岩が塞ぐ。
セトは白刃を振る直前だけ、接触する側の刃へ原光を集めた。
岩の端が切れる。
通れるだけの隙間を抜けた瞬間、白刃への流量を元へ戻す。
シアは炎で加速し、ネアは周囲の流れを操作して高度を保った。
三人の後ろで、新しい岩壁が地面から突き出した。
「昨日のやつ?」
シアが走りながら聞く。
「使っていい方だけだ」
「そっちはいいんだ」
「身体が止めてる量を越えてないからな」
限界を外したわけではない。
安全な範囲の中で、使っていない場所から必要な場所へ原光を動かしただけだ。
昨日見つけたものが、すべて使ってはならないものだったわけではない。
「土の精霊王より雑」
シアが振り返る。
「土の精霊王は、大地を動かすこと自体が目的でした」
ネアが言う。
「これは、大地が動いたことさえ結果の一つにすぎないようです」
◆ 川があった場所
地図に記された川へ着いた時、そこに水はなかった。
幅の広い川底だけが残っている。
丸い石。乾きかけた泥。倒れた水草。
対岸には、水が削った跡が何段も残っていた。
「昨日まで流れていたように見えるな」
セトが川底へ下りる。
泥はまだ柔らかい。
「こっち」
シアが遠くを指した。
川底の外側を、新しい水の流れが横切っている。
以前は畑だったらしい場所を削り、森の中へ流れ込んでいた。
さらに先には、木々の半分を沈めた湖ができている。
「川が移動した?」
「一度ではなさそうです」
ネアが対岸の跡を見る。
「水位も流れる方向も、何度か変化しています」
セトは地図を開いた。
川を基準にしても、丘を基準にしても、現在地を正確に決められない。
昨日まで存在した目印が、今日は別の形になっている。
先ほどの避難民が言っていたことが、ここでも確認できた。
「朝の話が、もう使えないわけだ」
セトが地図を畳む。
「使えない?」
シアが尋ねる。
「大まかな方角だけなら使える」
「光は見える」
空の一角が白く染まっている。
雲の向こうではない。
地上から空へ、淡い光が立ち上っていた。
「迷う心配はなさそうだな」
「近づくほど危険になるという意味でもあります」
ネアの言葉に、セトはうなずいた。
「分かってる」
※第41話「混沌の光」は全七回です。
続きます。
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