(二)同じ力
◆ 消えた街道
街道は、半日も進まないうちに途切れた。
正確には、道そのものがなくなったわけではない。
踏み固められた地面も、並べられた石も残っている。
ただし、それらは急斜面へ変わっていた。
街道の途中から地面が持ち上がり、低い山のようになっている。
石畳は斜面へ張り付き、そのまま頂上まで続いていた。
「本当に丘ができてる」
シアが見上げる。
「地面を押し上げた跡があります」
ネアは斜面の断面へ近づいた。
表面だけが盛り上がったものではない。
土の層が折れ、深い場所にあった岩が外へ露出している。
樹の根も途中で引きちぎられていた。
「土の精霊王の力に似てる?」
シアが尋ねる。
「結果だけなら」
ネアは露出した岩へ触れた。
「ですが、土の精霊力が強く残っているわけではありません」
「光なのか」
「原光に近い力が大量に流れた痕跡はあります」
光属性は、原光をほとんど別の性質へ変えずに扱う。
火や土のように、何を起こす力なのかが一つへ定まっていない。
セトは斜面を見上げる。
「越える」
「道を探さないの?」
「遠回りしてる間に、その道も変わるかもしれない」
先ほど聞いた話だけでも、数時間で川の位置が変わっている。
三人は、かつて街道だった斜面を登り始めた。
◆ 焼けながら育つ
丘の向こう側は、一面の草地だった。
ただし、緑一色ではない。
黒く焼けた地面。腰ほどまで伸びた草。芽を出したばかりの場所。
それらが境目もなく入り混じっている。
セトたちが斜面を下り始めた時、遠くで白い光が広がった。
音はない。
熱も、すぐには届かなかった。
草地を薄い光が通り過ぎる。
黒く焼けていた地面から、無数の芽が出た。
「生えた」
シアが足を止める。
芽は、そのまま伸び続けた。
細い茎が太くなる。
葉が開く。
隣の茎と絡まり、形を変え、短い時間でシアの背丈を越えた。
だが、成長は止まらない。
葉は互いに重なり、茎は支えきれないほど太くなり、自重で折れ始める。
「育っているというより、増えてるだけだな」
シアが言った。
「生きてはいます」
ネアは、急速に伸びる草の流れを見ている。
「ただし、長く生きる形へ整えられていません」
次の光が走った。
伸びた草が、根元から白く焼ける。
炎は出ない。
葉も茎も一瞬で水分を失い、崩れた。
新しく生まれた緑が、数呼吸のうちに黒い灰へ戻る。
「生やして、焼いた」
セトが言う。
「同じものが?」
「流れている力は、ほとんど同じです」
ネアが答えた。
「結果だけが違います」
◆ 同じ力
セトは焼けた草へ近づいた。
根元には、さっきまで伸びていた茎の一部が残っている。
少し離れた場所には、白い光を受けても焼けずに成長を続けている草があった。
さらに先では、小さな石が地面から押し出されている。
「樹と火と土が一緒にいる、とかじゃないのか」
シアが周囲を見る。
「その可能性も考えました」
ネアは焼けた地面へ手をかざした。
「ですが、ここに強く残っているのは火へ変換された精霊力ではありません」
「燃えてるのに?」
「燃えてはいません」
シアがしゃがみ込む。
黒くなった葉を指先で崩した。
「確かに灰っぽいけど、炎の跡じゃない」
「急激に状態を変えられた結果として、焼けたように見えているのでしょう」
ネアは次に、伸び続けている草へ視線を移す。
「こちらにも、樹属性へ強く変換された痕跡はありません」
「丘も土じゃなかった」
「はい」
起きた結果だけを見れば、別々の精霊王が力を使っているように見える。
だが、そのどれにも属性ごとの強い癖が残っていない。
元になった流れだけが似ている。
「全部、同じ光から起きてる?」
シアが尋ねる。
「その可能性が高いです」
ネアが答えた。
「複数の精霊王が、それぞれの属性を使っていると考えるより自然でしょう」
「じゃあ光が、樹になったり土になったりしてるのか」
「正確には違います」
ネアは少し考えてから続ける。
「光の精霊王が樹や土へ変換しているのではなく、原光に近いものを流し込んだ先で、それぞれ違う結果になっているように見えます」
シアが眉を寄せた。
「本人が草を生やそうとしたわけじゃない?」
「まだ断定はできません」
それでも、一つだけ候補は減った。
複数の精霊王が同時に暴れているのではない。
一つの力が、場所によって違う結果を起こしている。
※第41話「混沌の光」は全七回です。
続きます。
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