(七)試さない
◆ 試さない
セトは右手へ白刃を作った。
両側の刃。刀身の中央。基部。
そこを流れる原光が、以前よりはっきり見える。
刃へ流す量を増やしていく。
安全な範囲までは、そのまま増える。
さらに流そうとすると、右肩の手前で流れが細くなった。
黒刃と同じだった。
身体が、それ以上流さないように止めている。
「ここを開けばいい」
セトが言う。
シアが右肩を見る。
「開けるの?」
「開け方が分かったってだけだ」
流れを絞っている部分へ意識を向ける。
そこへ従わず、さらに白刃へ送る。
頭の中ではできる。
どこを止めれば制限が外れ、どこへ原光が流れるのかも見える。
そこを開けば、白刃へさらに力を送れる。
身体にも、より多くの原光を流せる。
白刃は強くなる。
踏み込みも、剣を振る速さも上がる。
その代わり、右腕と肩の精霊回路が摩耗する。
続ければ傷つく。
さらに流せば、どこかで裂ける。
「少しだけなら?」
シアが聞く。
「少しだけ安全に強くなる場所を見つけたわけじゃない」
「止めるのを少し遅らせるだけです」
ネアが補う。
「どこから損傷が始まるかを確かめるには、実際に安全制限を越える必要があります」
「それを確認するために壊すのは違うな」
セトはすぐに白刃を消した。
◆ 成功するから試さない
「試さないの?」
シアが尋ねる。
「試さない」
「少しも?」
「必要ない」
開けば力が通ることは分かった。
その後に何が起こるかも見えている。
実際に自分の回路を壊して確かめる必要はない。
白い針は、試して失敗しても消えるだけだった。
流量を減らした白刃も、受け方を間違えれば形が崩れるだけだった。
必要な瞬間だけ強める制御も、安全な範囲の中で何度でも確かめられた。
これは違う。
成功すれば、制限を越えて原光が流れる。
制限を越えて流れたという成功そのものが、精霊回路を傷つける。
「見えるようになれば、どうすれば壊れないか分かると思った」
セトは両手を見る。
「分かったのは、どうすれば壊せるかだった」
使い方の形だけなら、もう見えている。
だが、形が分かったからといって完成させる必要はない。
成功するか分からないから試さないのではない。
成功した時に何が起こるか分かったから、試さない。
その違いは大きかった。
◆ 答えにはしない
白刃の制限を外せば、刃と身体へ大量の原光を通せる。
黒刃の制限を外せば、外へ逃がしきれない原光を自分の身体へ通せる。
左腕から入り、胸を通り、右腕へ流す。
黒刃で受けた力を、白刃から外へ出すこともできる。
頭の中では、流れがつながっていた。
どこで止める制御が働くのか。
どこを外せば先へ進むのか。
左から入った原光を、どこへ逃がせば一か所へ集中しないのか。
白刃へ送るなら、どの経路を通るのか。
だが、それは回路が強くなったからではない。
自分自身を通路にして、壊しながら力を通すだけだ。
「これは使わない」
セトは言った。
「俺が探していた答えじゃない。回路を強くする方法でも、負担を減らす方法でもない」
壊れる前に止めているものを外し、壊れるまで力を通す。
それだけだ。
「戦い方として考えるべきじゃない」
シアが短く答えた。
「分かった」
「わたしも、それが妥当だと思います」
ネアもそれ以上は尋ねなかった。
シアは「危なくなった時だけ」とは言わない。
ネアも「相手が強ければ」と条件を付けない。
使える状況を探せば、それだけで戦い方の一つになる。
今ここで決めたのは、そうしないことだった。
「じゃあ、白刃の方は続ける?」
シアが聞く。
「そっちは普通に使える」
「細いのも?」
「針は今のところ使い道ないけどな」
「でも作れる」
「作れることと、使えることは別だろ」
シアは少し考えた。
「今日それ多いな」
「何が?」
「できるけど、やらない」
「そうかもな」
セトは右手を開く。
白刃は作らなかった。
できることが増える。
それを全部使う必要はない。
見つけたものが、全部強さになるわけでもない。
使えるかどうかを確かめる必要はない。
技として完成させる必要もない。
名前を付ける必要もない。
戦力として数えてはならないものだった。
セトは両手を閉じた。
見つかったものは解決策ではない。
答えとして扱ってはならないものだった。
見えるものが増えれば、答えへ近づけると思っていた。
実際には、見えないままの方がよかったものまで見えるようになっていた。
それでも、見えた以上は間違えない。
使えるから使うのではない。
強くなるから選ぶのでもない。
セトは、その道を閉じた。
二度と使わないために。
開け方を知ったことごと、忘れようとするように。
※第40話「限界を外す刃」は全七回です。
続きます。
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