(六)見えてしまったもの
◆ 見えてしまったもの
閉じようとする流れを止め、外から入る原光をそのまま腕へ通す。
手首から前腕へ。肘から肩へ。胸と背中へ分ける。
そうすれば、黒刃だけで処理するより多くの原光を受けられる。
セトは一瞬、それが答えだと思った。
黒刃が先に限界へ達しない。
一か所へ集まる負荷を、全身へ分けられる。
二本の精霊剣の力も、同じように流せるかもしれない。
「それなら――」
言いかけて、セトは止まった。
流れが見えた。
だから、その先まで見えた。
原光が左手から入る。
腕を通る。
肩へ届く。
胸と背中へ広がる。
そこで終わらない。
流れが大きくなれば、通った場所へ負荷がかかる。
さらに増えれば、精霊回路が摩耗する。
耐えられなくなった場所から裂ける。
胸と背中へ分ければ、左腕一か所へ集まる負荷は減る。
だが、負荷そのものが消えるわけではない。
傷む場所を広げているだけだ。
負荷を安全に分けているのではない。
黒刃で処理できないものを、自分の身体へ押し込んでいるだけだった。
セトは左手を下ろした。
「違う」
「何がですか」
「これは解決じゃない」
◆ 真逆の答え
セトが欲しかったのは、二本の精霊剣へ耐えられる身体だった。
シアとネアの力を受けても壊れない精霊回路。
二人と分霊核に力が残っている間、立ち続けられる使い手。
白刃の流れを細かく扱えるようになった。
無駄を減らせた。
必要な瞬間だけ刃を強化できた。
余った力を身体へ戻すこともできた。
そこまでは、求めていた方向だった。
同じ量の力を、より無駄なく使う。
身体を壊さず、少しでも長く戦えるようにする。
見えるものが増えたことで、解決へ近づいたと思った。
同じように精霊剣の負担を減らし、少しずつ限界を押し広げられると思っていた。
見つかったものは、その反対だった。
「回路を強くする方法じゃない」
セトが言った。
「では、何が見えたのですか」
「回路を守っているものを止める方法だ」
身体は、壊れる量の力が流れないように制限している。
黒刃を弱める。
必要なら解除する。
白刃へ流す量を絞る。
腕や脚へ送る量を抑える。
晶の精霊王との戦いで動けなくなったのも、すべての回路が壊れたからではない。
壊れる前に、身体が止まった。
「それを外せば、今より多くの力を通せる」
「どれくらい?」
シアが尋ねた。
セトはすぐには答えられなかった。
「壊れるまでだ」
◆ これは壊す方法
シアが黙る。
「今までより長く動けるのではありません」
ネアが言った。
「動けなくなる前に、精霊回路の方が壊れます」
セトは黙って自分の腕を見る。
「負荷へ耐えられるようになるのでもありません。今まで身体が止めていた量を、止めずに通せるようになるだけです」
ネアはそこで一度言葉を切った。
「探していたものとは、正反対ですね」
「そうだな」
見えるものが増えれば、どうすれば壊れないかが分かると思った。
分かったのは、どうすれば壊れるまで止まらずにいられるかだった。
「セトが欲しかったのは、壊れない方法」
シアが言う。
「そうだ」
「これは壊す方法」
セトは返事をしなかった。
否定するところがなかった。
「真逆」
短い言葉だった。
それ以上の説明は必要なかった。
※第40話「限界を外す刃」は全七回です。
続きます。
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