(五)黒刃だけではない
◆ 黒刃だけではない
流れが見えなかった頃なら、黒刃の吸収限界だと考えたかもしれない。
今は違う。
どこで止まっているのかが見える。
見えるなら、流し方を変えられるかもしれない。
「一か所で止まるから駄目なら、分ければいいのかもしれない」
セトが言う。
「手首から入ったものを、そのまま腕だけで受けない?」
「肩まで通して、胸と背中へ分ける。もっと先まで流せるなら、一か所に集めなくて済む」
「安全な範囲で考えるなら、方向としては分かります」
ネアはすぐには否定しなかった。
「ただし、外から入る原光を実際に通すのはまだやめてください」
「まず道だけ見る」
その日の訓練を終えた後も、セトは左腕の流れを確かめ続けた。
黒刃は作っていない。外から原光も入っていない。
それでも、流れを止める場所は分かる。
セトは自分の原光を、肩から腕へ流した。
内側から同じ場所へ触れる。
回路が塞がっているわけではない。
流せない構造でもない。
一定以上を流そうとした時だけ、身体がそこで量を絞る。
「黒刃だけの仕組みじゃないかもしれない」
セトが言う。
「どういう意味ですか?」
「外から入ってきた力を拒んでるんじゃなくて、俺の身体が大きい流れそのものを止めてるのかもしれない」
◆ 身体が止めている
確かめるため、セトは右手に白刃を作った。
今度は形を変えない。
白刃へ流す原光だけを、いつもの範囲で少しずつ増やす。
刃が明るくなる。
密度が上がる。
まだ問題はない。
さらに少しだけ増やそうとする。
右腕から肩へ続く流れが、ある位置で自然に細くなった。
「ここもだ」
セトはそこで増やすのを止める。
「黒刃と同じ?」
「場所は違う。でも止まり方が似てる」
ネアが右肩へ意識を向ける。
「白刃そのものが限界へ達した様子はありませんね」
「もっと流せそうなのに、身体側が先に絞ってる」
次に、白刃へ使っていない原光を右脚へ回す。
安全な量なら、踏み込みが軽くなる。
だが、さらに増やそうとすると、脚へ向かう流れも無制限には増えない。
「脚も止まる」
「じゃあ黒刃じゃない」
シアが言う。
「俺の身体の方だ」
黒刃を解除する。
白刃へ流す量を絞る。
脚へ送る量を抑える。
術ごとに別の問題が起きているのではない。
精霊回路と身体が、損傷する前に扱う量を減らしている。
「人間の身体は、壊れる前に止まります」
ネアが言った。
「痛みも疲労も、そのためにあります。精霊回路も同じなのでしょう」
◆ 開けるのと広げるのは違う
「晶の精霊王との戦いでも?」
「一部はそうだった可能性があります」
「まだ流せた?」
シアが尋ねる。
「その言い方は正確ではありません」
ネアは否定した。
「壊すつもりなら、さらに流せた可能性があるというだけです」
壊さず流せる量。
壊れながら流せる量。
それは同じではない。
「でも、止めてるだけなら開けるんだよな」
シアの言葉に、セトはすぐ答えなかった。
身体が流れを絞っている。
物理的に通れない道ではない。
なら、閉じようとする制御を止めれば、その先へ通せる。
「開けるのと、広げるのは違う」
セトが言う。
「違う?」
「道が細いから少しずつ太くするんじゃない。通すと危ないから止めてる。その止め方を弱くしても、余った安全な場所が出てくるわけじゃない」
「安全な境界を後ろへずらすだけですね」
ネアが続ける。
「今まで止めていた量より多く通せば、その分だけ損傷する側へ近づきます。少しだけ外せば安全、とは確認できません」
それでも、外し方そのものは見え始めていた。
※第40話「限界を外す刃」は全七回です。
続きます。
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