(五)本物の魔剣
◆ 表彰
舞台が整えられ、表彰の準備が始まった。
先に賞金の入った袋が運ばれてくる。
続いて、兵士たちが木箱を舞台の中央へ移動させた。
決勝で敗れた二人も、準優勝者として舞台の端に立っている。
光の精霊術士は、少し離れた場所にいた。
剣の男は、木箱から目を離さない。
大会の運営者が、箱の鍵を開けた。
蓋が持ち上がる。
中には、一振りの剣が収められていた。
黒い鞘。
古びた銀色の柄。
柄の中央には、赤い石が埋め込まれている。
観客席から歓声が上がった。
「これが、優勝賞品の魔剣だ!」
運営者が剣を持ち上げる。
シアは目を細めた。
「どうだ」
セトが小声で尋ねる。
「遠い」
「もう少し近づけば分かるか」
「ああ」
運営者が二人へ剣を渡そうと、一歩前へ出た。
その時だった。
◆ 奪われた賞品
準優勝した剣の男が動いた。
舞台を強く蹴り、運営者へ飛びかかる。
「なっ――」
男は運営者の腕をつかみ、魔剣を奪い取った。
左右の兵士が剣を抜く。
男は奪った剣を鞘ごと振り、兵士の一人を殴り倒した。
「何をしている!」
大会の係員が叫ぶ。
「これは俺のものだ!」
「お前は負けた!」
「俺が持つべき剣だ!」
男は黒い鞘から刀身を抜いた。
鈍い銀色の刃が現れる。
シアが眉を寄せた。
「違う」
「何がだ」
「あれには、ほとんど力がない」
「偽物か?」
「まだ分からない。近くで見れば――」
男は剣を横へ振った。
兵士たちが下がる。
その隙に、男は舞台から観客席側へ飛び降りた。
◆ 崩れる足場
男は出口へ向かわなかった。
舞台の脇に立てられた木製の観覧台へ走る。
支柱を奪った剣で斬った。
古い木が大きな音を立てる。
「逃げろ!」
観客が騒ぎ始めた。
観覧台が傾く。
その下には、人がいる。
「シア!」
「ああ」
シアが炎を放つ。
観覧台を支えていた太い縄だけが焼き切れた。
倒れる方向が変わる。
セトは白刃を作り、落ちてくる横木を斬った。
大きな木材がいくつかに分かれる。
観客たちが、その隙間から逃げる。
シアは落下する木片を火で弾き、誰もいない場所へ飛ばした。
観覧台が石床へ崩れ落ちる。
土煙が上がった。
男の姿は、すでに闘技場から消えていた。
「追うぞ」
セトが言う。
「今なら追いつける」
シアが走り出す。
◆ 町の外へ
男は町の裏通りを抜け、外壁の小さな通用門から外へ出ていた。
門番が地面へ倒れている。
息はある。
「こっちだ」
シアが街道とは違う方向を指した。
草が踏み荒らされている。
男は人の多い街道を避け、林へ入ったらしい。
「魔剣の力を感じるのか」
「弱い。だが、何かが動いた跡は分かる」
「本当に魔剣なのか」
「分からない」
二人は林へ入った。
細い獣道を進む。
折れた枝。
踏み倒された草。
追跡は難しくなかった。
シアなら先に追いつける。
それでも、一人では行かなかった。
セトと同じ速さで走っている。
「先に行ってもいいぞ」
「二人で追う」
「今は大会じゃない」
「分かっている」
「なら、なぜだ」
「セトもあれを見たいだろ」
「ああ」
「なら、一緒に行く」
それだけ言い、シアは前を向いた。
◆ 途切れた足跡
林を抜けると、古い街道へ出た。
今はほとんど使われていないらしく、石の間から草が伸びている。
男の足跡は、その先へ続いていた。
やがて、道の途中で足跡が乱れる。
一人分ではない。
別の誰かと向かい合った跡がある。
「誰かいる」
シアが足を止めた。
「追いついたのか」
「違う」
金属が地面へ落ちる音がした。
二人は道の先へ進む。
倒れた男が見えた。
決勝で戦った剣の男だった。
胸元を深く斬られ、石の上に血が広がっている。
その少し先に、優勝賞品だった剣が落ちていた。
男の前には、もう一人立っていた。
◆ 偽物
立っていたのは、壮年の男だった。
旅装の上からでも分かるほど、鍛えられた体をしている。
片手には、赤黒い刀身の剣。
その切っ先から血が落ちた。
男は倒れた剣士ではなく、地面へ落ちた優勝賞品を見ていた。
「噂を聞いて来てみれば、この程度か」
壮年の男が言った。
「魔剣ではないのか」
セトが尋ねる。
男がこちらを見る。
「少しばかり精霊力を入れただけの飾りだ。魔剣と呼べるものではない」
シアが地面の剣へ目を向けた。
「何もない」
「やはり分かるか」
壮年の男が笑った。
「大会の者たちは、見事に騙されたらしい」
セトは倒れた剣士へ近づこうとした。
「動くな」
壮年の男が赤黒い剣を向ける。
「まだ息があるかもしれない」
「ない」
「お前が殺したのか」
「ああ」
否定する様子はなかった。
◆ 赤黒い剣
シアは壮年の男ではなく、その手にある剣を見ていた。
赤黒い刀身。
表面には炎がない。
それでも、周囲の空気がかすかに揺れている。
火の聖剣よりも濃い力が、剣の中に押し込められていた。
シアの表情が変わる。
「セト」
声が低い。
「どうした」
「あの剣だ」
「先代を殺したものか?」
「あの中に、先代の火がある」
壮年の男がシアを見た。
先ほどまでの薄い笑みが消える。
「そうか」
男は、シアの赤い髪と瞳をゆっくり眺めた。
「もう次が生まれていたか」
シアの手に炎が灯る。
「お前が先代を殺したのか」
「そうだ」
男は赤黒い剣を構えた。
「名はグラウス」
剣の中で、奪われた火が揺れた。
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