表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第7話 偽物を持ち逃げした男

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/27

(五)本物の魔剣

◆ 表彰


 舞台が整えられ、表彰の準備が始まった。


 先に賞金の入った袋が運ばれてくる。


 続いて、兵士たちが木箱を舞台の中央へ移動させた。


 決勝で敗れた二人も、準優勝者として舞台の端に立っている。


 光の精霊術士は、少し離れた場所にいた。


 剣の男は、木箱から目を離さない。


 大会の運営者が、箱の鍵を開けた。


 蓋が持ち上がる。


 中には、一振りの剣が収められていた。


 黒い鞘。


 古びた銀色の柄。


 柄の中央には、赤い石が埋め込まれている。


 観客席から歓声が上がった。


「これが、優勝賞品の魔剣だ!」


 運営者が剣を持ち上げる。


 シアは目を細めた。


「どうだ」


 セトが小声で尋ねる。


「遠い」


「もう少し近づけば分かるか」


「ああ」


 運営者が二人へ剣を渡そうと、一歩前へ出た。


 その時だった。


◆ 奪われた賞品


 準優勝した剣の男が動いた。


 舞台を強く蹴り、運営者へ飛びかかる。


「なっ――」


 男は運営者の腕をつかみ、魔剣を奪い取った。


 左右の兵士が剣を抜く。


 男は奪った剣を鞘ごと振り、兵士の一人を殴り倒した。


「何をしている!」


 大会の係員が叫ぶ。


「これは俺のものだ!」


「お前は負けた!」


「俺が持つべき剣だ!」


 男は黒い鞘から刀身を抜いた。


 鈍い銀色の刃が現れる。


 シアが眉を寄せた。


「違う」


「何がだ」


「あれには、ほとんど力がない」


「偽物か?」


「まだ分からない。近くで見れば――」


 男は剣を横へ振った。


 兵士たちが下がる。


 その隙に、男は舞台から観客席側へ飛び降りた。


◆ 崩れる足場


 男は出口へ向かわなかった。


 舞台の脇に立てられた木製の観覧台へ走る。


 支柱を奪った剣で斬った。


 古い木が大きな音を立てる。


「逃げろ!」


 観客が騒ぎ始めた。


 観覧台が傾く。


 その下には、人がいる。


「シア!」


「ああ」


 シアが炎を放つ。


 観覧台を支えていた太い縄だけが焼き切れた。


 倒れる方向が変わる。


 セトは白刃を作り、落ちてくる横木を斬った。


 大きな木材がいくつかに分かれる。


 観客たちが、その隙間から逃げる。


 シアは落下する木片を火で弾き、誰もいない場所へ飛ばした。


 観覧台が石床へ崩れ落ちる。


 土煙が上がった。


 男の姿は、すでに闘技場から消えていた。


「追うぞ」


 セトが言う。


「今なら追いつける」


 シアが走り出す。


◆ 町の外へ


 男は町の裏通りを抜け、外壁の小さな通用門から外へ出ていた。


 門番が地面へ倒れている。


 息はある。


「こっちだ」


 シアが街道とは違う方向を指した。


 草が踏み荒らされている。


 男は人の多い街道を避け、林へ入ったらしい。


「魔剣の力を感じるのか」


「弱い。だが、何かが動いた跡は分かる」


「本当に魔剣なのか」


「分からない」


 二人は林へ入った。


 細い獣道を進む。


 折れた枝。


 踏み倒された草。


 追跡は難しくなかった。


 シアなら先に追いつける。


 それでも、一人では行かなかった。


 セトと同じ速さで走っている。


「先に行ってもいいぞ」


「二人で追う」


「今は大会じゃない」


「分かっている」


「なら、なぜだ」


「セトもあれを見たいだろ」


「ああ」


「なら、一緒に行く」


 それだけ言い、シアは前を向いた。


◆ 途切れた足跡


 林を抜けると、古い街道へ出た。


 今はほとんど使われていないらしく、石の間から草が伸びている。


 男の足跡は、その先へ続いていた。


 やがて、道の途中で足跡が乱れる。


 一人分ではない。


 別の誰かと向かい合った跡がある。


「誰かいる」


 シアが足を止めた。


「追いついたのか」


「違う」


 金属が地面へ落ちる音がした。


 二人は道の先へ進む。


 倒れた男が見えた。


 決勝で戦った剣の男だった。


 胸元を深く斬られ、石の上に血が広がっている。


 その少し先に、優勝賞品だった剣が落ちていた。


 男の前には、もう一人立っていた。


◆ 偽物


 立っていたのは、壮年の男だった。


 旅装の上からでも分かるほど、鍛えられた体をしている。


 片手には、赤黒い刀身の剣。


 その切っ先から血が落ちた。


 男は倒れた剣士ではなく、地面へ落ちた優勝賞品を見ていた。


「噂を聞いて来てみれば、この程度か」


 壮年の男が言った。


「魔剣ではないのか」


 セトが尋ねる。


 男がこちらを見る。


「少しばかり精霊力を入れただけの飾りだ。魔剣と呼べるものではない」


 シアが地面の剣へ目を向けた。


「何もない」


「やはり分かるか」


 壮年の男が笑った。


「大会の者たちは、見事に騙されたらしい」


 セトは倒れた剣士へ近づこうとした。


「動くな」


 壮年の男が赤黒い剣を向ける。


「まだ息があるかもしれない」


「ない」


「お前が殺したのか」


「ああ」


 否定する様子はなかった。


◆ 赤黒い剣


 シアは壮年の男ではなく、その手にある剣を見ていた。


 赤黒い刀身。


 表面には炎がない。


 それでも、周囲の空気がかすかに揺れている。


 火の聖剣よりも濃い力が、剣の中に押し込められていた。


 シアの表情が変わる。


「セト」


 声が低い。


「どうした」


「あの剣だ」


「先代を殺したものか?」


「あの中に、先代の火がある」


 壮年の男がシアを見た。


 先ほどまでの薄い笑みが消える。


「そうか」


 男は、シアの赤い髪と瞳をゆっくり眺めた。


「もう次が生まれていたか」


 シアの手に炎が灯る。


「お前が先代を殺したのか」


「そうだ」


 男は赤黒い剣を構えた。


「名はグラウス」


 剣の中で、奪われた火が揺れた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ