(四)二人で勝つ
◆ 進むための火
シアが二つ目の火を置く。
セトはそこへ足を運ぶ。
踏み込んだ瞬間だけ、火が強くなる。
体を焼かず、足を前へ押す。
セトの動きに合わせている。
セトは白炎を振る。
男が受ける。
刀身がぶつかる直前、セトは炎を弱めた。
男が踏み込む。
そこへ、シアの火が置かれる。
今度は男の足元ではない。
セトが次に踏む場所だ。
セトは後ろを見ない。
足元を確かめない。
火があると信じて踏み込む。
炎が弾ける。
速度を増した白刃が、片刃の剣の横を抜けた。
男の肩口で止まる。
男は体をひねり、ぎりぎりで避けた。
服が浅く裂ける。
「火で動きを速めているのか」
「今、分かった」
セトが言う。
「お前も知らなかったのか」
「初めてやったからな」
◆ シアの判断
シアは、セトから指示を受けていなかった。
足元へ火を置けとも言われていない。
セトが進みたい場所を見て、自分で火を置いた。
セトも止めなかった。
火が体へ触れる直前に避けようともしない。
シアが自分を焼かないと分かっている。
次の火が左へ置かれる。
セトは右へ踏み込んだ。
「違う」
シアが言った。
「分かってる」
右へ動いたのは、男の剣を誘うためだ。
片刃の剣が追ってくる。
セトは直前で方向を変え、シアが置いた左の火を踏む。
炎に押され、男の横へ回る。
白炎を振り上げる。
男が剣で受ける。
セトは炎を強めた。
白い火が片刃の剣を包む。
男が耐える。
「この程度なら!」
「まだだ」
セトが言った。
◆ 白炎を渡す
シアが両手を上げた。
小さな火がいくつも生まれる。
男は警戒して周囲を見る。
だが、火は男へ向かわない。
すべて白炎へ集まっていく。
「強くするのか」
男が剣を引こうとする。
セトは白炎を押し当てたまま離さない。
「違う」
シアが言った。
火が白炎へ触れる。
刀身を包む炎は大きくならなかった。
セトが強さを抑えている。
シアが送った火は、白刃の中へ次々と重なる。
それでも、セトは炎として放出しない。
剣の形を保つ方へ力を回す。
白刃の密度が増していく。
片刃の剣が、少しずつ押し返された。
「火を弱くしているのに、なぜ――」
「強くする場所を変えただけだ」
セトは白炎を振り抜いた。
◆ 勝つための一撃
片刃の剣が大きく弾かれた。
男の両腕が上がる。
セトの正面が空いた。
シアが火を一つだけ放つ。
火は白刃へ向かわない。
男の背後へ飛んだ。
セトは白刃を短くする。
男が体勢を戻し、セトへ斬りかかる。
セトは刃の下へ入った。
肩がぶつかる。
男の体を押しながら、そのまま前へ進む。
背後にあった火が、男の足へ触れた。
炎は燃え上がらない。
足元で弾け、男の体勢だけを崩した。
セトは短い白刃を消す。
空いた右手で、男の剣を持つ腕をつかんだ。
足を払う。
男の体が石床へ倒れた。
セトは新しい白刃を作り、その首元へ切っ先を止める。
同時に、シアの小さな火が男の剣を囲んだ。
拾おうとすれば、手を焼かれる位置だった。
「終わりだ」
男は歯を食いしばった。
それでも、起き上がることはできない。
「……降参だ」
◆ 優勝
審判が腕を上げた。
「勝者、セト、シア組!」
闘技場が大きく揺れたように感じるほどの歓声が上がった。
セトは白刃を消す。
シアが隣へ来た。
「勝ったな」
「ああ」
「最後は、わたしが何をするか言わなかった」
「言う暇がなかったからな」
「セトも、どこへ動くか言わなかった」
「お前なら分かると思った」
「分かった」
「俺も分かった」
シアは少し考えた。
「これが二人で戦うということか」
「たぶんな」
「全部わたしが倒すより遅い」
「それはもういい」
「だが、悪くなかった」
シアは素直にそう言った。
その視線が、運営席の木箱へ移る。
「魔剣を見るぞ」
「余韻が短いな」
※第7話「偽物を持ち逃げした男」は全五回です。
続きます。
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