(一)基礎へ戻る
◆ 基礎へ戻る
晶の精霊王との戦いを終えてから、セトたちは数日間休養した。
身体の痛みは消えた。
剣を振っても、腕や肩に違和感はない。
だが、二本の精霊剣を同時に扱えば、いずれ同じことが起こる。
シアとネアに力が残っていても、セトが先に動けなくなる。
休めば回復する。しかし、限界そのものが変わったわけではなかった。
「精霊剣の訓練って、何すればいいんだろうな」
セトが言うと、シアはすぐに答えた。
「何回も剣になる?」
「それは訓練というより、消耗を繰り返すだけだ」
「慣れるかもしれない」
「先に身体が壊れます」
ネアが否定する。
「わたしたちも、セトの身体へどの程度まで力を流せるかは調整できます。しかし、セトの精霊回路そのものを外から強くすることはできません」
「精霊剣を使う人間が少なすぎる」
セトは自分の両手を見る。
「訓練法が残っていない?」
「残っていないというより、最初から作られていないのでしょう」
精霊王が剣となり、人間へ身と力を預ける。
それ自体が極めて珍しい。
二本を同時に扱う人間となれば、ほかに存在するかも分からない。
手本はなかった。
「なら、力を増やす前に、今どう使ってるかを見る」
シアが首を傾げる。
「弱くする?」
「違う。今まで同じ量を流してたところを、本当に全部同じにする必要があるのか見る」
「それなら、いきなり限界を試すより安全です」
ネアも頷いた。
「今のセトが扱える範囲の中で、無駄になっている流れを探すのですね」
「そういうことだ」
ならば、自分が長く使ってきた術から見直すしかない。
「白刃と黒刃へ戻る」
「精霊剣じゃなくて?」
「まずはそっちだ」
白刃と黒刃は、精霊王自身が剣となる精霊剣とは別物だ。
白刃を強くすれば極炎になるわけではない。黒刃を強くすれば絶光になるわけでもない。
それでも、剣と身体の間で精霊力を扱う点は共通している。
二本の精霊剣を使ったことで、以前よりも多くの流れが見えるようになっていた。
まずは、その感覚を自分の術へ戻してみる。
◆ まず普通を見る
三人は周囲に人のいない岩場へ移動した。
セトは右手を開き、周囲の原光を集める。
白い光が伸び、一本の剣となった。
左右の両側に刃を持つ、いつもの白刃だった。
セトは一度振る。
剣筋の先へ斬撃が走り、離れた岩の表面へ浅い傷をつけた。
「普通」
シアが言った。
「まずは普通の状態を見る」
セトは白刃を消し、もう一度作った。
幼い頃から繰り返してきた術だ。
普段なら、形が完成した後は相手や足場へ意識を移す。
どう作ったかを、完成した後まで考え続けることはなかった。
今は違う。
原光が掌の前へ集まる。
基部から切っ先へ伸びる。
外形を作り、その内側を満たす。
完成した後も、原光は刀身の中を流れ続け、剣の形を固定している。
「前より見える?」
シアが尋ねる。
「どこにどれだけ流しているかが分かる」
セトは白刃へ集める原光を減らした。
刀身が短くなる。
短剣ほどの長さまでは、以前から作ることができた。
「短くするだけなら前もできた」
「そうですね」
ネアが刀身を見る。
「長さを変えること自体は、新しく得た制御ではありません」
◆ 細くする
セトは短くした白刃の幅を狭めていく。
白い刃が細くなる。
一定の細さを越えると、輪郭が揺れ始めた。
「消えそう」
「見えてる」
「力を増やす?」
「増やさない」
以前も同じことを試したことはある。
細くしすぎれば形を保てない。
消えないよう原光を増やせば、再び太い刃へ戻る。
その時は、細い形を保つだけの力が足りないと思っていた。
だが、今はそう見えない。
「全部を一緒に固めてる」
セトが言った。
「外側も、中も、切っ先まで伸ばす分も。細くしようとしてるのに、同じ流れで元の剣へ戻そうとしてる」
「命令が一つしかない?」
「そんな感じだ」
白刃全体を一つの塊として固定していた。
長さも幅も密度も、まとめて一つの形として維持しようとしていた。
だから細くしようとすると形が崩れ、崩れないよう力を足せば元の太さへ戻る。
セトは流れを細かく分ける。
外形を作る力。
密度を保つ力。
切っ先まで伸ばす力。
形を固定し続ける力。
すべてへ同じ量を流すのではなく、必要な場所だけへ送る。
白刃がさらに細くなる。
輪郭が一度揺れた。
セトは増やしかけた原光を止め、外形へ回す量だけを少し戻す。
揺れが収まった。
※第40話「限界を外す刃」は全七回です。
続きます。
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