(五)人間の番
◆ 回復
その日は、ほとんど寝台の上で過ごした。
昼過ぎに一度だけ立った。
寝台へ手をつき、ゆっくりと腰を上げる。
立つことはできた。
だが、背筋を伸ばしたところで視界がわずかに揺れた。
「座ってください」
ネアが言う。
「まだ立っている」
「立っていられるうちに座るのです」
シアが反対側から腕を支える。
「倒れる前に座る」
二人に戻され、セトは寝台へ腰を下ろした。
「歩けないな」
「朝よりは進みました」
「立っただけだ」
「朝は起き上がることにも失敗していました」
翌朝には、部屋の中を歩けるようになった。
昼には家の前まで出て、長椅子へ座った。
二つの赤い分霊核と二つの黒い分霊核も、三人とともに外へ出る。
四つとも、戦いの直後より光を取り戻していた。
「分霊核の方が早い」
セトが言う。
「比較しないでください」
ネアが答えた。
「でも遅い」
シアが言う。
「否定はしませんが、競争ではありません」
◆ 強い光
夕方、兵士が一通の報告を持ってきた。
別の地域で、強い光が断続的に観測されているという。
夜でも周囲が昼のように明るくなる。
光が収まった後には、植物や地面の形が変わっている。
植物が急に成長したかと思えば、次の光で焼け落ちる。
地面が盛り上がり、その直後に崩れる。
川の流れまで変わり始めているらしい。
「一つの属性だけには見えませんね」
ネアが報告を読む。
「全部、光で起きてる?」
シアが尋ねる。
「現地で確認しなければ分かりません」
「場所は?」
セトが地図を広げた。
今いる集落からは、数日かかる。
「明日の朝、さらに詳しい報告が届く予定です」
兵士が答えた。
「分かりました」
兵士が帰った後、シアがセトを見る。
「行く?」
「今は行かない」
シアが少し目を見開く。
「自分から言った」
「今出ても、移動だけで余計に疲れる」
「妥当な判断です」
ネアがうなずく。
「明日の報告を確認し、セトの状態を見て決めましょう」
◆ 次の戦いまでに
次の異変が始まっている。
完全な解決方法が見つかるまで、待ってはくれないかもしれない。
身体が回復すれば、以前と同じように戦える。
極炎を一本なら扱える。
絶光も使える。
二本同時でも、短時間なら動ける。
だが、それだけでは問題がなくなったことにはならない。
「治った後も、限界は同じか」
セトが尋ねる。
「同じ戦い方をすれば、同じ限界へ近づきます」
ネアが答えた。
「休んだ分、昨日より長くは動ける」
「ええ」
「でも、最後は止まる」
「その可能性が高いです」
「なら、止まらない方法を探す」
「あるかは分かりません」
「まず、あるかどうかからだ」
シアが二つの赤い分霊核を手元へ寄せた。
「方法がなかったら?」
「今ある限界の中で戦う」
「それだけ?」
「見つかるまではな」
◆ 人間の番
夕方、四つの分霊核は三人の周囲で静かに浮かんでいた。
二つの赤い玉には火が戻りつつある。
二つの黒い玉にも、銀色の線が増えている。
シアとネアは、休めば力を取り戻す。
分霊核も、時間をかければ再び蓄えられる。
増やせば、さらに多くの力を持ち運べる。
だが、その力を三人の戦いへ束ねる時、必ず人間であるセトを通る。
その人間が最初に止まれば、残った力は使えない。
「次は俺か」
セトが言う。
「次?」
シアが尋ねる。
「強くするものだ。今までは二人の分霊核を探していた」
「今度はセトを探す?」
「ここにいる」
「なら探さなくていい」
「方法を探すんだ」
ネアが黒い分霊核からセトへ視線を移す。
「まずは、今あるものから考えるしかありませんね」
「ああ」
シアとネアには、まだ先がある。
分霊核にも、まだ力を蓄える余地がある。
その力を止めている一番細い場所は、今は人間だった。
だから次は、その人間自身の番だった。
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