(三)訓練法がない
◆ 強くできるか
「俺の精霊回路を強くする方法はあるか」
セトが尋ねた。
シアはネアを見る。
ネアはすぐには答えなかった。
「原光を流す練習を続ければ、多少は安定するでしょう」
「多少」
「急に精霊王二人分の力へ耐えられるようになる方法は知りません」
「シアは?」
「知らない」
「精霊剣になる側の知識は?」
「ある。でも、持つ人間を強くする知識はない」
精霊剣は、精霊王が自ら剣となり、人間へ身を預ける形だ。
精霊王は出力と属性を制御する。
人間は身体と剣技を担う。
その仕組みはシアにもネアにも分かる。
だが、剣を持つ人間が、どのように身体を鍛えればよいかは別だった。
「精霊王の知識に、すべてが含まれているわけではありません」
ネアが言う。
「人間の身体については、人間の方が詳しかったのでしょう」
◆ 訓練法がない
「過去の使い手は、どうしていた」
「精霊剣を扱った人間自体が多くありません」
ネアが答える。
「記録が残っていたとしても、一人の精霊王と一人の人間によるものが中心でしょう」
「二本は?」
「少なくとも、二本を同時に扱うための訓練法を、わたしは知りません」
「私も」
シアも答えた。
「一回剣になって、少しずつ時間を延ばす?」
「それは訓練というより、セトへ負荷をかけているだけです」
「少しなら」
「回復していない人間で試しません」
セトは二人を見る。
「完全に回復してからなら?」
「多少は慣れる可能性があります」
ネアは言葉を選んだ。
「ですが、身体が耐えられるようになるのか、壊れるまで我慢できるようになるだけなのか、区別できません」
「我慢できる方はいらない」
シアが言う。
「同感です」
◆ 流す側の限界
「二人の方で、俺へ流す量を調整することはできる」
「できます」
「昨日もしていた」
「ええ」
ネアがうなずいた。
「極炎も絶光も、最初から最大の力を流していたわけではありません」
「セトが動ける量にしてた」
シアが言う。
「最後の壁で増やした」
「そこで限界へ達したわけか」
「それ以前から、右手と右脚の動きが遅れていました」
ネアは見逃していなかった。
「本当なら、もう少し早く解除するべきでした」
「あと少しだった」
「その『あと少し』で動けなくなりました」
「でも届いた」
「届いたのは、シアとわたしが戻って戦えたからです」
昨日の判断が完全な失敗だったわけではない。
結果として晶の精霊王は止まった。
ただし、次も同じように勝てる保証はない。
「わたしたちができるのは、流す量を減らすことです」
ネアが続ける。
「セトの精霊回路そのものを、大きくすることではありません」
「月の力でも?」
「乱れた流れを整えることはできます。偏りを見つけ、詰まりを減らすことも」
今も、ネアはセトの腕へ細い線を通している。
「ですが、それは治療や調整です。精霊王二人分へ耐えられる身体に変えることではありません」
「火も無理」
シアが言った。
「燃やして広げる?」
「セトの内側を燃やさないでください」
「しない。無理って言った」
「先に燃やす案を出したように聞こえました」
「出してない」
◆ 一人分の身体
セトは寝台の上で両手を開いた。
右手に極炎。左手に絶光。
左右へ異なる力を通し、二本の剣を別々に動かす。
幼い頃から二本の剣を同時に扱ってきたため、二刀を動かすこと自体には慣れている。
その点では、ほかの人間より精霊剣二本へ向いているはずだった。
それでも、身体は一つしかない。
腕が二本あっても、精霊回路が二人分あるわけではない。
足も、心臓も、呼吸も一人分だった。
「剣技の問題ではないな」
セトが言う。
「昨日の動きに、大きな誤りはありませんでした」
ネアが答える。
「剣を置く位置も、進む道も、間違ってはいません」
「ただ、身体が続かなかった」
「ええ」
「剣が振れないなら、剣技も使えない」
「そういうことです」
※第39話「人間がボトルネック」は全五回です。
続きます。
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