(二)使い切れない強さ
◆ 一本と二本
食事を終えた後、ネアは昨日までの戦いを順に確認した。
重の精霊王との戦いでは、セトは極炎を二度使った。
分霊核に残した力があったため、シアの火は二撃目にも足りていた。
負荷を受けたのは、火を身体へ通し、剣を振ったセトだった。
晶の精霊王との戦いでは、極炎と絶光を同時に扱った。
シアが出力と火の制御を担当する。
ネアが吸収と偏向、結晶形成の阻止を担当する。
セトが二本の剣を持ち、身体、剣技、位置取りを担う。
「一本なら問題なかった?」
シアが尋ねる。
「問題がないとは言えません」
ネアが答える。
「ですが、今回ほど早く動けなくなることはなかったでしょう」
「二本だから?」
「二人分の力を、一つの身体で同時に受けていますから」
極炎と絶光は、同じ力ではない。
身体へ流れ込む量だけでなく、流れ方も違う。
セトは二つを混ぜず、左右で別々に通しながら動いていた。
それを長く続ければ、人間の身体が先に止まる。
◆ 休養不足だけではない
「完全に休んでいれば、もっと長く動けた」
セトが言う。
「それはそうでしょう」
ネアは否定しなかった。
「なら、今回は休みが足りなかったことも原因だ」
「原因の一つです」
「一つ?」
「十分に休んでいれば、限界へ達するまでの時間は延びます」
ネアは二つの黒い分霊核へ目を向けた。
「ですが、わたしたちと分霊核の力が尽きるより、セトの身体が先に止まるという順番まで変わるとは思えません」
分霊核は力を蓄えられる。
休めば、シアとネア自身の力も戻る。
集める数が増えれば、保持できる力はさらに増える。
だが、セトの身体へ一度に通せる力が、それに合わせて増えるわけではない。
「次はもっと早く終わらせる」
シアが言った。
「相手が短く終わらせてくれるとは限りません」
「もっと強く撃つ」
「セトがさらに早く止まります」
シアは少し考えた。
「じゃあ、だめ」
◆ 増える力
「残りの分霊核も探すのか」
セトが尋ねる。
「探します」
ネアが答える。
「分霊核が不要になったわけではありません」
「増やせば、もっと戦える」
シアが言う。
「シアとネアはな」
「セトも使える」
「精霊剣になれば、俺の周囲へ来る。だが、動かしているのは二人だ」
「そう」
「力が残っていても、俺が倒れれば精霊剣は解除することになる」
「昨日みたいに、戻ってから戦える」
「それも分霊核の利点です」
ネアが言う。
「ただ、精霊剣でなければ突破できない相手に対しては、セトが動けなくなった時点で、最も有効な手段を失います」
昨日は、晶の精霊王の防御をほとんど崩した後だった。
そのため、シアとネアは人型へ戻ってから押し切れた。
もっと早い段階でセトが止まっていれば、同じ結果にはならなかった。
◆ 使い切れない強さ
「二つの分霊核には、まだ力が残っていました」
ネアが言う。
「シアにも、わたしにも残っていました」
「俺だけ使い切った」
「精霊力を使い切ったわけではありません」
ネアはセトの言葉を正した。
「セト自身の原光は残っています。精霊回路も壊れてはいません」
「でも動けなかった」
「力があることと、それを流し続けられることは別です」
セトの中に原光が残っていても、身体へうまく回らない。
右腕へ力を送れば、肩と背中で滞る。
脚へ送れば、踏み込む前に流れが乱れる。
器の中身が空になったのではない。
中に残っているものを、必要な場所へ運べなくなっていた。
「分霊核と似てる」
シアが言った。
「中に火があっても、私が動かさないと撃てない」
「近いですが、セトの場合は動かそうとしても身体が応じなかったのです」
「もっと悪い」
「そうですね」
※第39話「人間がボトルネック」は全五回です。
続きます。
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