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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第39話 人間がボトルネック

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(一)動かない身体

◆ 動かない身体


 目を覚ました時、セトは見覚えのない天井を見ていた。

 木の梁。白く塗られた壁。

 開けられた窓から、朝の光が差し込んでいる。


 身体を起こそうとする。

 腕へ力を入れた途端、肩から背中にかけて重い痛みが走った。


「起きないで」


 横からシアの声がした。

 セトが顔だけを向ける。

 シアは窓際の椅子へ座っていた。

 二つの赤い分霊核が、その肩の左右へ浮かんでいる。


「どれくらい寝ていた」

「夜から朝まで」

「普通だな」

「途中で二回起きた。でも覚えてない」

「それは寝ていたことになるのか」

「また寝たから、なってる」


 セトはもう一度起き上がろうとした。

 今度は肘を寝台へつく。


「だから起きないで」

「起きられるか確認している」

「起きられてない」


◆ 昨日よりは


 扉が開き、ネアが部屋へ入ってきた。

 手には水の入った器を持っている。

 二つの黒い分霊核が、少し遅れて室内へ入った。


「何をしているのですか」

「起きられるか確認していた」

「確認する必要はありません。まだ起きないでください」


 ネアは器を小さな台へ置いた。

 セトの手首へ指を触れる。

 銀青色の細い線が、腕から肩へ伸びた。


「昨日よりは整っています」

「なら起きられる」

「昨日よりは、です」

「同じことを言ってる」


 シアが言った。


「セトが都合のよい部分だけ聞いています」


 線が胸元を通り、背中へ回る。

 精霊回路に大きな損傷はない。

 だが、身体の内側を流れる原光は、所々で滞っていた。

 二本の精霊剣から流れ込んだ力を受け止め続けたため、全身がまだ通常の流れへ戻っていない。


「腕や脚を傷めたわけではありません」


 ネアが言う。


「身体の一か所ではなく、全体が疲れています」

「立つくらいなら」

「立つ必要がありません」


◆ 残っている力


 セトは、シアの周囲に浮かぶ赤い分霊核を見た。

 昨日より光が強い。

 夜の間にも、シアは少しずつ力を戻していたらしい。

 ネアの黒い分霊核にも、銀色の線が巡っている。


「二人は平気なのか」

「平気」


 シアがすぐに答える。


「まったく消耗していないわけではありません」


 ネアが訂正した。


「ただ、セトよりは回復しています」

「分霊核にも力が残ってる」


 シアが赤い玉を一つ手元へ寄せる。

 内部には、まだ火の光が揺れていた。


「昨日の戦いが続いても、私はもう少し戦えた」

「わたしもです」


 ネアの返答に迷いはなかった。


「晶の精霊王が再び結晶化を始めても、しばらくは止められました」

「でも、セトが動かなかった」


 シアが言う。


「ああ」


 セトは自分の右手を見た。

 指は動く。拳を握ることもできる。

 それでも、剣を持って立つ姿は想像できなかった。


◆ 戦いの後


 晶の精霊王との戦いは終わっている。

 林の結晶化も止まった。

 固まった川や木をすぐに元へ戻すことはできないが、これ以上広がる様子はない。


 シアとネアは、倒れたセトを近くの集落まで運んだ。

 途中で迎えに来た兵士たちが荷車を用意し、三人は夜のうちに空いていた家へ入った。


「晶の精霊王は?」

「地面の深いところで結晶を作ってる」


 シアが答える。


「上へ出さないよう、場所を選んでいます」


 ネアが続けた。


「今朝も確認しましたが、林へ再び広げる様子はありません」

「二人で行ったのか」

「近いから」

「セトが寝ている間に、川を塞いでいた結晶も少し動かしてきました」

「戦った次の日に?」


 ネアがセトを見る。


「だから、わたしたちはセトより動けると言っているのです」


◆ 休む日


 朝食が運ばれてきた。

 柔らかく煮た穀物と、細かく切った野菜が入った汁物だった。

 セトは寝台の上で身体を起こし、壁へ背を預けた。

 そこまで動くことは許された。


 汁物の器を持つ。

 腕が震えるほどではない。

 だが、持ち続けると肩の奥が重くなった。


「重の精霊王と戦った後にも、右腕へ疲れが残っていました」


 ネアが言う。


「その翌日に移動して、晶の精霊王と戦いました。完全に回復していたわけではありません」

「一日は休んだ」

「一日しか休んでいません」

「動けた」

「動けることを、十分に回復した基準へしないでください」


 前にも言われた言葉だった。

 シアが汁物を飲みながらセトを見る。


「今回は、動けなくなった」

「分かっている」

「なら休む」

「ああ」

「今日はずっと」

「それは長い」

「一日だから長くない」



※第39話「人間がボトルネック」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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