(七)まだ残る光
◆ 二人の追撃
晶の精霊王は、結晶の柱を何本も立ち上げた。
シアへ向けたものだけではない。
ネアとの間を塞ぎ、二人を分けようとしている。
「同じことする」
シアが言う。
「先ほどより壁が薄いです」
ネアは柱へ伸びる原光を分散させた。
形が完成する前に、シアが蹴り砕く。
赤い分霊核の一つが頭上を守る。
もう一つは、晶の精霊王の背後へ回り、短い火を放つ。
同時に大きな攻撃はしない。
正面のシア。
横の分霊核。
発射する位置を切り替えながら、晶の精霊王へ防御を作り続けさせる。
ネアは形成の大きな流れを自分で押さえ、細い枝分かれを二つの黒い核から止めた。
晶の精霊王の周囲に、新しい結晶を置ける場所が減っていく。
◆ 変わらない構造
シアの拳が、晶の精霊王の前で止まった。
背後には赤い分霊核がある。
左右には、ネアの黒い制御線が走っていた。
新しい壁を作ろうとしても、形になる前に止められる。
すでにある壁は、シアが砕いた。
「まだ固める?」
シアが尋ねる。
「構造がなければ、進化しない」
「全部固めたら、変わらない」
「強い構造は残る」
「残ったまま、何にも変われない」
晶の精霊王は、結晶化した林を見る。
木々は形を保っている。
枝も葉も崩れていない。
だが、成長することも、季節に合わせて葉を落とすこともできない。
「構造は、変わるためにもあります」
ネアが言った。
「身体が形を持っていても、内側を何も通さなければ生きられません」
「形が崩れる」
「必要なら作り直します。変わらないことだけが、強さではありません」
◆ 結晶を置く場所
晶の精霊王は、足元の結晶へ手を触れた。
「鉱脈は残る」
「地中に作れば、地上の生命を固めずに済みます」
ネアが答える。
「構造が必要な場所を選んでください。何もかも一つの形へ変える必要はありません」
「弱いものは崩れる」
「崩れるから、新しい形へ変わる」
シアが拳を下ろした。
「変わるのを止めたら、進化もしない」
晶の精霊王は、しばらく答えなかった。
やがて、塔の外側へ広がっていた光が弱くなる。
林へ進んでいた結晶化が止まった。
すでに固まった木や土は、そのまま残る。
晶の精霊王は、地面の奥へ力を向けた。
表面ではなく、生命の根が届かない深さへ、小さな結晶の層を作る。
「ここなら、上を固めない」
「ええ」
◆ 立てないセト
戦いが終わっても、セトはすぐには立てなかった。
シアが戻ってくる。
「終わった」
「ああ」
「立てる?」
セトは地面へ手をついた。
脚へ力を入れる。
膝が少し上がり、すぐに落ちた。
「まだ無理だ」
「最初から座っててって言った」
「座ってた」
「立とうとした」
ネアが隣へしゃがむ。
セトの腕から胸元へ、細い銀青色の線を通す。
「精霊回路そのものが尽きたわけではありません」
「なら、なぜ動かない」
「身体が、二本の精霊剣を受け止め続けられなかったのでしょう」
ネアの周囲では、二つの黒い分霊核が静かに浮いている。
内部には、まだ銀色の光があった。
◆ まだ残る光
シアの二つの分霊核にも、火が残っていた。
重の精霊王との戦いで大きく使い、晶の精霊王の壁を砕くためにも使った。
それでも、完全には空になっていない。
「私も、まだ撃てる」
シアが言う。
「わたしも制御を続けられます」
ネアは結晶化した林へ線を伸ばした。
残った流れを確認し、再び広がらないよう押さえている。
「セトは?」
「剣は持てない」
セトは、力の入らない右手を見た。
シアとネアの力は残っている。
分霊核にも蓄えがある。
二人は精霊剣から人型へ戻った後も、その力で戦いを終わらせた。
先に尽きたのは、精霊王の力ではなかった。
三人の中で最初に動けなくなったのは、二本の剣を預かった人間の身体だった。
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