(六)先に尽きるもの
◆ 進める道
塔の中心まで、距離はそれほどない。
それでも、進むたびに壁が増えた。
晶の精霊王は正面だけを守らない。
斜めに結晶を置き、セトの進行方向を曲げる。
足元を高くし、天井を低くする。
一枚ごとの壁は極炎で砕ける。
だが、置かれる位置が変わるたび、セトは剣を振る方向を変えなければならない。
絶光で形成を止める位置も、そのたびに移る。
「道を作るための構造じゃないな」
『入れない形を作っています』
『全部壊す』
「一つずつだ」
右の分霊核が火を放つ。
結晶の注意がそちらへ向いた直後、セトは左の絶光を壁へ当てた。
流れを止める。
極炎を返し、中央を砕く。
一歩。
また一歩。
四つの分霊核がなければ、進む間に後ろを閉じられていた。
◆ セトの手
塔の半分を越えた頃、セトの右手にしびれが出た。
極炎の柄を握る感覚が薄い。
『力を入れすぎ』
シアの声が響く。
「握れてる」
『握れているかではありません』
左腕にも重さが出ている。
絶光から流れ込む精霊力は、極炎とは違う。
身体を強く押すのではなく、周囲の細かな流れを同時に伝えてくる。
二本分の情報と力が、セトの中を通り続けていた。
「あとどれくらいだ」
『三層ほどです』
「行ける」
『セトの判断は信用しません』
「なら、ネアが決めろ」
短い沈黙があった。
『次の層までです。そこで状態を見ます』
「分かった」
セトは前へ出た。
右足の踏み込みが、わずかに遅れた。
◆ 最後の層
晶の精霊王の姿が、結晶越しに見えた。
残る壁は一枚ではない。
厚い結晶の内部へ、細い層が何十枚も重なっている。
それぞれの間を原光が流れ、外側が壊れれば内側を押し出す構造になっていた。
『止めます』
絶光から黒い力が広がる。
ネアが、幾重にも分かれた流れを一つずつ捉えた。
外側の層が止まる。
内側も止まる。
塔全体から光が薄れた。
『今』
シアが極炎へ力を集める。
二つの赤い分霊核からも、残っていた火が流れ込んだ。
「極炎!」
セトは剣を突き出した。
炎が、止まった結晶の層を正面から貫く。
一枚。
二枚。
重なった壁が内側から砕け、塔の中心が赤い光に包まれた。
晶の精霊王の姿が、初めて直接見えた。
セトはさらに踏み込もうとした。
右膝から力が抜けた。
◆ 先に尽きるもの
極炎の切っ先が下がる。
絶光で止めていた流れが、わずかに戻った。
晶の精霊王の周囲へ、新しい結晶が生まれ始める。
『セト、止まって!』
『解除します』
「まだ――」
立て直そうとした足が動かない。
二本の精霊剣から流れ込む力は残っている。
四つの分霊核にも、まだ光がある。
それでも、力を受け止めているセトの身体が動かなかった。
握っているつもりの右手から、極炎の柄が滑りかける。
左腕も、絶光を持ち上げられない。
『もう無理』
「あと一歩だ」
『その一歩を動けていません』
ネアの声は静かだった。
だが、答えを待つ気はなかった。
二本の剣が同時に光へ変わる。
◆ 人型へ戻る
シアとネアが、セトの左右へ人の姿で戻った。
身体能力を支えていた精霊剣の力が消える。
セトはその場へ膝をついた。
シアが肩を支える。
「座ってて」
「晶の精霊王が戻る」
「私たちは動ける」
晶の精霊王の周囲で、砕かれた結晶が再び形を作り始めていた。
ネアはセトの腕へ一瞬だけ線を伸ばす。
精霊回路は壊れていない。
だが、二本の精霊剣を同時に通した負荷で、全身の流れが乱れている。
「動かないでください」
「二人の力は?」
「残っています」
ネアの周囲へ、二つの黒い分霊核が戻る。
シアの左右にも、赤い核が二つ浮かんだ。
「だから、ここからは私たちがやる」
◆ 残っていた力
晶の精霊王が、新しい壁を作る。
シアが正面から走った。
右側の分霊核が先に火を放つ。
壁の表面が赤くなり、細い亀裂が入った。
シア自身はそこへ拳を打ち込む。
亀裂が一気に広がり、結晶が崩れた。
次の壁が作られる前に、ネアの黒い線が流れへ絡む。
二つの黒い分霊核は、塔の左右へ分かれた。
一方が右側の形成を止める。
もう一方が左側へ回り、退路を作ろうとする流れを押し戻す。
「剣がなくても来る?」
晶の精霊王が尋ねる。
「私たちが剣だった」
シアが答えた。
「戻っただけ」
左の赤い分霊核から火が走る。
晶の精霊王がそちらへ壁を作る。
シアは空いた正面へ踏み込んだ。
※第38話「重さと結晶」は全七回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




