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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第38話 重さと結晶

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(六)先に尽きるもの

◆ 進める道


 塔の中心まで、距離はそれほどない。

 それでも、進むたびに壁が増えた。

 晶の精霊王は正面だけを守らない。

 斜めに結晶を置き、セトの進行方向を曲げる。

 足元を高くし、天井を低くする。


 一枚ごとの壁は極炎で砕ける。

 だが、置かれる位置が変わるたび、セトは剣を振る方向を変えなければならない。

 絶光で形成を止める位置も、そのたびに移る。


「道を作るための構造じゃないな」

『入れない形を作っています』

『全部壊す』

「一つずつだ」


 右の分霊核が火を放つ。

 結晶の注意がそちらへ向いた直後、セトは左の絶光を壁へ当てた。

 流れを止める。

 極炎を返し、中央を砕く。


 一歩。

 また一歩。


 四つの分霊核がなければ、進む間に後ろを閉じられていた。


◆ セトの手


 塔の半分を越えた頃、セトの右手にしびれが出た。

 極炎の柄を握る感覚が薄い。


『力を入れすぎ』


 シアの声が響く。


「握れてる」

『握れているかではありません』


 左腕にも重さが出ている。

 絶光から流れ込む精霊力は、極炎とは違う。

 身体を強く押すのではなく、周囲の細かな流れを同時に伝えてくる。

 二本分の情報と力が、セトの中を通り続けていた。


「あとどれくらいだ」

『三層ほどです』

「行ける」

『セトの判断は信用しません』

「なら、ネアが決めろ」


 短い沈黙があった。


『次の層までです。そこで状態を見ます』

「分かった」


 セトは前へ出た。

 右足の踏み込みが、わずかに遅れた。


◆ 最後の層


 晶の精霊王の姿が、結晶越しに見えた。

 残る壁は一枚ではない。

 厚い結晶の内部へ、細い層が何十枚も重なっている。

 それぞれの間を原光が流れ、外側が壊れれば内側を押し出す構造になっていた。


『止めます』


 絶光から黒い力が広がる。

 ネアが、幾重にも分かれた流れを一つずつ捉えた。

 外側の層が止まる。

 内側も止まる。

 塔全体から光が薄れた。


『今』


 シアが極炎へ力を集める。

 二つの赤い分霊核からも、残っていた火が流れ込んだ。


「極炎!」


 セトは剣を突き出した。

 炎が、止まった結晶の層を正面から貫く。

 一枚。

 二枚。


 重なった壁が内側から砕け、塔の中心が赤い光に包まれた。

 晶の精霊王の姿が、初めて直接見えた。

 セトはさらに踏み込もうとした。

 右膝から力が抜けた。


◆ 先に尽きるもの


 極炎の切っ先が下がる。

 絶光で止めていた流れが、わずかに戻った。

 晶の精霊王の周囲へ、新しい結晶が生まれ始める。


『セト、止まって!』

『解除します』

「まだ――」


 立て直そうとした足が動かない。

 二本の精霊剣から流れ込む力は残っている。

 四つの分霊核にも、まだ光がある。

 それでも、力を受け止めているセトの身体が動かなかった。


 握っているつもりの右手から、極炎の柄が滑りかける。

 左腕も、絶光を持ち上げられない。


『もう無理』

「あと一歩だ」

『その一歩を動けていません』


 ネアの声は静かだった。

 だが、答えを待つ気はなかった。

 二本の剣が同時に光へ変わる。


◆ 人型へ戻る


 シアとネアが、セトの左右へ人の姿で戻った。

 身体能力を支えていた精霊剣の力が消える。

 セトはその場へ膝をついた。

 シアが肩を支える。


「座ってて」

「晶の精霊王が戻る」

「私たちは動ける」


 晶の精霊王の周囲で、砕かれた結晶が再び形を作り始めていた。

 ネアはセトの腕へ一瞬だけ線を伸ばす。

 精霊回路は壊れていない。

 だが、二本の精霊剣を同時に通した負荷で、全身の流れが乱れている。


「動かないでください」

「二人の力は?」

「残っています」


 ネアの周囲へ、二つの黒い分霊核が戻る。

 シアの左右にも、赤い核が二つ浮かんだ。


「だから、ここからは私たちがやる」


◆ 残っていた力


 晶の精霊王が、新しい壁を作る。

 シアが正面から走った。

 右側の分霊核が先に火を放つ。

 壁の表面が赤くなり、細い亀裂が入った。


 シア自身はそこへ拳を打ち込む。

 亀裂が一気に広がり、結晶が崩れた。


 次の壁が作られる前に、ネアの黒い線が流れへ絡む。

 二つの黒い分霊核は、塔の左右へ分かれた。

 一方が右側の形成を止める。

 もう一方が左側へ回り、退路を作ろうとする流れを押し戻す。


「剣がなくても来る?」


 晶の精霊王が尋ねる。


「私たちが剣だった」


 シアが答えた。


「戻っただけ」


 左の赤い分霊核から火が走る。

 晶の精霊王がそちらへ壁を作る。

 シアは空いた正面へ踏み込んだ。



※第38話「重さと結晶」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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