(五)二本の精霊剣
◆ 増える結晶
セトは白刃を作った。
刀身を塔の隙間へ差し込み、斜めに振る。
見えている刃より先まで斬撃が走り、結晶の層が崩れた。
「切れる」
「でも、遅い」
シアが砕けた部分へ炎を流す。
結晶は赤く焼けるが、すぐには溶けない。
ネアが塔の奥へ線を通す。
「内部で別の層を作っています」
正面の成長を止められた晶の精霊王は、さらに奥へ結晶を置いていた。
シアたちが一層を壊す間に、次の壁が完成する。
土の精霊王のように、遠く離れた何かを同時に動かしているわけではない。
ただ、一度置かれた結晶がその場へ残る。
止めただけでは、道は開かなかった。
「壊すのが追いつかない」
セトは白刃を下ろした。
「二本で行く」
◆ 二本の精霊剣
シアとネアがセトを見る。
「昨日、極炎を二度使っています」
ネアが言った。
「今日は休んだ」
「一日です」
「このままでも林が固まる」
塔の外側では、結晶化が少しずつ広がっている。
ネアが止めているが、すべてを長く抑え続けることはできない。
「壊す役と、作らせない役が必要だ」
セトは右手をシアへ、左手をネアへ向けた。
「短く終わらせる」
「短く終わらなければ?」
ネアが尋ねる。
「その時に考える」
「シアと同じ答えですね」
「いい答え」
シアが言った。
ネアは小さく息を吐く。
「無理だと判断したら、こちらから解除します」
「ああ」
二人の身体が、赤橙色と銀青色の光へ変わった。
◆ 四つの分霊核
セトの右手に極炎が収まる。
左手には、黒い刀身を持つ月の精霊剣・絶光が現れた。
二本の剣から、異なる力が身体へ流れ込む。
極炎は身体を前へ押し出す。
絶光は周囲の原光の流れを、細部まで見せる。
二つを同時に受けた瞬間、セトの精霊回路へ強い圧力がかかった。
四つの分霊核も、セトの周囲へ移る。
赤い玉が二つ。
黒い玉が二つ。
セトには、それぞれの位置と残量が伝わってくる。
だが、操作しているのはシアとネアだった。
『右側の結晶は私が焼く』
『黒い分霊核は、林と退路へ置きます』
「俺は塔を壊す」
『そのままです』
『一番分かりやすい』
セトは二本の剣を構えた。
◆ 壊す剣と止める剣
塔へ向かって走る。
地面から結晶の柱が伸びた。
左の絶光で受ける。
黒い刀身が結晶へ触れる前に、内部を流れる原光が抜けた。
伸びかけた柱が途中で止まる。
セトは右の極炎を振った。
止まった柱が、熱と斬撃で砕ける。
正面へ新しい壁が作られる。
絶光を横へ置く。
ネアが流れを読み、形成の起点をずらした。
壁の中央だけが薄くなる。
そこへ極炎を突き込む。
赤い炎が穴を広げ、セトが中へ踏み込んだ。
『壊した直後を止めます』
『止まったら壊す』
二本の剣の役割は、混ざっていない。
極炎は砕く。
絶光は作らせない。
セトは二つを交互に置き、塔の内部へ進んだ。
◆ 置かれたもの
晶の精霊王は、壊された壁をすぐに戻そうとした。
絶光が流れを奪う。
新しい結晶は作れない。
だが、左右と頭上には、すでに完成した結晶が残っている。
塔の内部は、狭い通路のようになっていた。
セトが通るたび、横から突き出た結晶が肩や脚を狙う。
極炎で切れば、正面への攻撃が遅れる。
絶光では、完成した結晶を消せない。
『右』
赤い分霊核が横へ火を放つ。
突き出た結晶の根元が割れた。
『後ろを閉じようとしています』
黒い分霊核の一つが、通ってきた穴へ線を伸ばす。
結晶を作る流れを止め、退路を残す。
もう一つの黒い核は林の側へ制御線を広げ、塔の外へ進む結晶化を抑えていた。
二つの赤い核は、セトの近くで側面と頭上を守る。
※第38話「重さと結晶」は全七回です。
続きます。
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