(四)光る荒野
◆ 一日の休息
ネアと合流した時、セトは極炎を解除した。
シアが人の姿へ戻る。
二つの赤い分霊核は、どちらも光を大きく減らしていた。
「二回撃てた」
シアが言う。
「セトは疲れています」
ネアはセトの腕へ線を伸ばした。
「一度目だけでも、今までなら大きく消耗していた出力です」
「でも、まだ歩ける」
「歩けることを、次の戦闘ができる基準にしないでください」
セトはしびれの残る右手を開いた。
「今日は休む」
「当然です」
「明日は?」
シアが尋ねる。
「セトの状態を見てからです」
その日の夜、三人は平原から離れた集落へ泊まった。
シアとネアは休みながら、分霊核へ少しずつ力を戻す。
セトは剣を作らなかった。
それでも、右腕の奥には極炎を二度通した重さが残っていた。
◆ 光る荒野
翌日の昼過ぎ、晶の精霊王がいる地域から新しい報告が届いた。
土地が硬い透明な物質へ変わり続けている。
最初は岩の一部だけだった。
次に土が固まり、植物の根が閉じ込められた。
今では小さな林と、その近くを流れる川まで、光を反射する結晶に覆われ始めている。
三人はさらに一日をかけて移動した。
遠くからでも、異変の範囲は分かった。
平原の一部だけが、夕日のような光を返している。
近づくと、地面から大小の結晶が突き出していた。
透明なもの。白いもの。薄い青や紫を帯びたもの。
色は異なるが、どれも不自然なほど形が整っている。
「きれい」
シアが言う。
「足元も見てください」
結晶の下には、折れた草が閉じ込められていた。
◆ 固まった生命
結晶化した林では、木々が幹の形を保ったまま固まっていた。
樹皮の表面から透明な結晶が伸び、枝と枝の間をつないでいる。
葉は落ちない。
風が吹いても揺れない。
根の周囲にあった土も固まり、水も通らなくなっていた。
「生きてる?」
シアが幹へ手を当てる。
「すぐにすべてが死んだわけではありません」
ネアが内部へ線を伸ばす。
「ですが、水も原光も通りません。このままでは長く持たないでしょう」
川も同じだった。
表面に薄い結晶が張っただけではない。
水の中へ細い柱が無数に伸び、流れを区切っている。
魚はすでに下流へ逃げたのか、姿がなかった。
流れる水の音だけが、結晶の隙間から細く聞こえる。
「形を作ってる」
シアが言う。
「作りすぎています」
◆ 構造を作る王
林の中心には、結晶の塔があった。
塔といっても、人間が積み上げた建物ではない。
地面から伸びた結晶が互いに組み合わさり、一つの大きな構造になっている。
その内部に、人の形が見えた。
透明な層の奥で、晶の精霊王が目を開く。
「止めろ」
セトが呼びかけた。
塔の表面に、新しい結晶が生まれる。
「構造を作っている」
「ここにあった木や川を固めてまで?」
ネアが尋ねる。
「小さい生命は集まり、大きな生命になる」
晶の精霊王の声が、塔全体から響いた。
「柔らかな身体には、骨ができる。土の中では、鉱物が並び、鉱脈になる」
結晶同士がつながり、さらに複雑な形へ変わっていく。
「形がなければ、生命は大きくならない。構造がなければ、進化しない」
「全部を同じように固めたら、動けなくなる」
シアが言う。
「強い形は残る」
「残るだけ」
◆ 残る壁
シアが塔へ近づいた。
地面から細い結晶が伸び、足を囲もうとする。
炎を足元へ広げる。
結晶の先端が赤くなり、ひびが入った。
シアは一歩進み、拳を塔へ打ち込む。
表面の一層が砕けた。
その奥には、同じ厚さの結晶がある。
「硬い」
シアはもう一度殴った。
ネアの線が、塔へ集まる原光を捉える。
新しい結晶を作ろうとする流れを吸収し、横へ逸らした。
「追加の形成は止められます」
塔の成長が止まる。
だが、すでに作られた結晶は消えなかった。
シアが一層を砕く。
その奥にも層がある。
周囲の形成を止めれば、塔の内部へ向ける制御が薄くなる。
内部を止めれば、林の外側で結晶化が進む。
※第38話「重さと結晶」は全七回です。
続きます。
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