(三)二度目の極炎
◆ 本体への道
重の精霊王へ近づくほど、岩の密度が増えた。
足元の石まで軽くなり、地面から浮かび上がる。
セトが踏み込もうとした場所から、支えが消える。
身体がわずかに沈んだ。
『右』
分霊核の一つが地面近くへ火を放つ。
熱と衝撃で、浮き上がりかけた土が後方へ飛んだ。
セトは残った岩を踏み、前へ進む。
正面から細い石が無数に飛んできた。
重さはない。
触れる直前に、一斉に重くなる。
セトは極炎を横へ振った。
炎の斬撃が石の列を切り裂く。
切り損ねたものは、後方の分霊核が熱の壁で受けた。
『今』
右前方の赤い玉が、重の精霊王の横へ火を放つ。
人影がそちらへ岩を集めた。
セトは空いた正面へ走った。
◆ 一度目
重の精霊王の前へ、岩が幾重にも重なった。
大きな岩の隙間へ小石が入り、さらに砂が詰まる。
重さを増した石の塊が、壁となってセトを塞いだ。
「シア」
『合わせる』
極炎の刀身が、白に近い赤色へ変わる。
シアが出力を一つへ集める。
セトは一歩踏み込み、剣を振り下ろした。
「極炎!」
炎が一直線に走った。
岩の壁が中央から赤く染まる。
表面が溶け、内部が割れ、押し固められていた石が左右へ吹き飛んだ。
炎はその奥まで抜ける。
重の精霊王の身体を包み、地面ごと後方へ押し流した。
平原へ長い焼け跡が残った。
セトは極炎を地面へ突き、息を吐く。
重の精霊王は倒れていた。
だが、その周囲で石が再び浮き始める。
◆ 残っている火
「まだ動くのか」
『削りきれてない』
重の精霊王が上半身を起こす。
灰色の衣は焼けている。
それでも、空へ上がる岩の数は減っていなかった。
「衝撃が足りない」
人影が言った。
「もっと落とす」
平原全体の岩が地面を離れた。
一度目の極炎で、シアは大きく力を使っている。
セトの身体にも、強い出力を通した反動が残っていた。
それでも、周囲を回る二つの分霊核には赤い光が残っている。
戦う前に蓄えた力だ。
極炎へ集めなかった分が、器の中に保たれている。
二つの赤い玉から、極炎の刀身へ細い光が流れ始めた。
『まだ分霊核分が残ってる! 息を整えてもう一発撃て!』
セトは大きく息を吸った。
一度。
二度。
落石は、二つの分霊核が防いでいる。
◆ 二度目
重の精霊王が両腕を下ろした。
空を覆っていた岩が、一斉に落下する。
二つの分霊核がセトの前へ出た。
炎の膜を重ねる。
最初の岩が触れ、砕ける。
次の岩が膜を押し下げる。
赤い光が薄くなっていく。
『今!』
セトは炎の膜の下から飛び出した。
分霊核の防御を越えた岩だけを、極炎で切る。
右。
左。
正面。
落石の隙間を抜け、重の精霊王へ迫る。
人影が自分の前へ最後の岩を集めた。
セトは止まらない。
分霊核から戻された火が、極炎へ流れ込む。
「極炎!」
二度目の炎が、岩の壁へ突き刺さった。
今度は壁だけで止まらない。
重の精霊王の周囲にあった浮遊する石をまとめて吹き飛ばし、灰色の人影を地面へ押さえつけた。
極炎の切っ先が、胸元で止まる。
「もう落とすな」
◆ 落とさない重さ
空に残っていた岩が、ゆっくりと下り始めた。
急に重くするのではない。
一つずつ、元の重さへ戻している。
平原へ大きな衝撃は起きなかった。
「外からの衝撃は必要だ」
重の精霊王が言う。
「必要だった時もある」
セトは極炎を下ろした。
『今ここへ、同じ岩を何度落としても、外から新しいものは来ない』
「砕ける。混ざる」
『ここには、もう生きているものがある』
岩壁の向こうでは、ネアが作業員たちを避難させている。
採石場には道具が残り、切り出された石が積まれていた。
『落とす場所を見る。何があるかも見る。それから決める』
「衝撃をなくす?」
『必要のない衝撃を止める』
重の精霊王は周囲の岩を見る。
一つが斜面から転がりかけた。
その岩だけが軽くなり、ゆっくりと地面へ戻される。
「落とさないためにも、重さを変えられる」
『そう』
※第38話「重さと結晶」は全七回です。
続きます。
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