(二)石の雨
◆ 外からの衝撃
「なぜ、衝撃が必要なのですか」
ネアが尋ねる。
「世界の外から、石が落ちる」
重の精霊王は空を見上げた。
「大地を砕く。熱を作る。違うものを運ぶ」
「流星のことですか」
「外から来る衝撃が、同じ大地を変える」
空へ浮かぶ岩の数が増える。
「一度では足りない。何度も落ちる。砕ける。混ざる。新しいものが生まれる」
創世期には、外から落ちる石が大地を変えたのかもしれない。
衝撃によって地形が変わり、熱が生まれ、そこになかった物質が加わる。
だが、今、空へ浮かんでいるのは流星ではない。
もともと平原にあった岩だった。
「ここへ落としても、外から何かが増えるわけではありません」
ネアが言う。
「衝撃は増える」
「壊れるものも増えます」
「壊れれば混ざる」
重の精霊王は、避難した採石場を見た。
「ここは固まりすぎている」
◆ 分かれた地面
岩が一斉に上昇した。
「下がれ!」
セトが叫ぶ。
三人は散る。
軽くなった岩は、上へ飛ぶというより、重さを失ったまま押し上げられていた。
大きな岩の陰から、避難し遅れた作業員が二人走ってくる。
ネアがそちらへ向かった。
「こちらへ!」
次の瞬間、浮いていた岩の重さが戻った。
落下が始まる。
ネアは両手を広げた。
黒い分霊核二つが作業員の上へ移る。
銀青色の線が、落ちてくる岩へ絡んだ。
正面から受け止めるのではない。
落ちる方向を少しずつ横へ曲げる。
岩が作業員の左右へ落ち、地面を砕いた。
さらに大きな岩が、三人の間へ落下する。
衝撃で平原が割れた。
土煙が広がり、セトとシアの前に崩れた岩の壁が立ち上がった。
「ネア!」
向こう側から声が返る。
「無事です! ですが、まだ人が残っています!」
◆ 向こう側のネア
崩れた岩壁の向こうでは、落石が続いていた。
ネアは作業員を守りながら、二つの黒い分霊核を別々の位置へ動かしている。
一つは上から落ちる岩を横へ逸らす。
もう一つは、崩れかけた地面の流れを分散させる。
自分の周囲へも線を広げ、さらに遠くの岩を見ていた。
「こちらを離れられません!」
「そのまま人を守れ!」
セトが答える。
「重の精霊王はこっちにいる」
シアは土煙の向こうを見た。
灰色の人影は動いていない。
その周囲へ、さらに岩が集まっている。
「本来なら、ネアの方が向いてる」
「今はいない」
「私たちでやる」
赤い分霊核が、シアの左右へ並んだ。
重の精霊王が腕を下ろす。
空に浮かんだ石が、セトとシアへ向かって流れ始めた。
◆ 極炎と二つの核
「シア」
「分かった」
シアの身体が赤橙色の光へ変わる。
光はセトの右手へ集まり、火の精霊剣となった。
極炎の刀身から、赤い炎が立ち上がる。
二つの分霊核はシアの身体があった場所へ残らず、セトの周囲へ移った。
一つは右の斜め前。
もう一つは左の後方。
セトにも、二つの赤い光があることは分かる。
どちらにどれほど力が残り、何をしようとしているのかも、精霊剣を通じて伝わってくる。
だが、自分の手足のようには動かせない。
『分霊核は私が動かす』
「ああ」
『セトは前だけ見て』
「それは無理だ」
『じゃあ、本体を見て』
「分かった」
極炎を構え、セトは前へ出た。
◆ 石の雨
最初に落ちてきたのは、拳ほどの石だった。
数は多い。
軽いままセトの周囲へ集まり、頭上まで来たところで重さを増す。
右側の分霊核が前へ出た。
短い炎が連続して弾ける。
石をすべて消すほどの火ではない。
落下の向きをずらし、セトへ直撃するものだけを砕く。
セトは残った石を極炎で切り払った。
足元へ落ちた小石が、地面へ深く沈む。
「一つでも重いな」
『次、大きい』
左後方の分霊核が頭上へ回った。
炎の膜が斜めに広がる。
家ほどの岩が落ちてくる。
膜へ触れた表面が赤く焼け、亀裂が走った。
セトは極炎を振り上げる。
岩は中央から割れ、左右へ落ちた。
その間にも、右側の分霊核は重の精霊王へ小さな火を放つ。
灰色の人影が、浮かせた岩を盾にした。
※第38話「重さと結晶」は全七回です。
続きます。
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