(一)重さを変える王
◆ 二つの候補
二通の伝言にあった宝玉は、どちらも本物だった。
赤い玉は、旅商人が長く在庫へ残していたものだった。
色は美しいが、どの宝石とも一致せず、削ることもできない。
黒い玉は、古い装飾品から外された後、石材を扱う店の箱へ混ざっていた。
穴を開けられず、ほかの石より使い道がないまま残されていた。
シアが赤い玉へ火の力を流す。
ネアが黒い玉へ月の力を流す。
二つの宝玉は、それぞれの色の光を内側へ蓄え、静かに浮き上がった。
「両方、本物だった」
シアは肩の左右へ浮かぶ赤い分霊核を見た。
「珍しく、都合よく進みましたね」
ネアの周囲にも、黒い玉が二つ浮かんでいる。
「珍しく?」
「前は、候補を三つ調べて、本物は一つだけだったでしょう」
「あれは石が悪い」
「普通の宝石だっただけです」
◆ 同じ手順
二個目の分霊核について、改めて試すことは多くなかった。
力が入ること。離れた位置へ動かせること。蓄えた力を出し入れできること。攻撃や防御、制御の起点にできること。
最初の分霊核で確認したことを一通り繰り返し、二個目も同じ器であると確かめた。
違ったのは、操作する対象が増えたことだけだった。
シアは二つの赤い玉を左右へ分けた。
一つを前へ出し、もう一つを後ろへ置く。
前から小さな火を放った後、後ろの玉へ意識を移し、熱の膜を作った。
「二つなら動かせる」
「今は止まった的と、動かない防御だけです」
ネアが言う。
「戦ってもできる」
「それをこれから確認することになるかもしれません」
ネアの視線は、届いたばかりの報告書へ向いていた。
◆ 四つの宝玉
報告が来たのは、二個目の分霊核を得た翌朝だった。
町から東へ進んだ岩の多い平原で、石が空へ浮かんでいるという。
小石だけではない。
人の背丈を超える岩まで地面を離れ、しばらく浮かんだ後、突然落下する。
落ちた岩は、以前よりも深く地面へ沈む。
街道を通る荷車が巻き込まれ、採石場で働いていた者たちも避難していた。
「重の精霊王でしょう」
ネアが報告書を閉じる。
「重さを変えている?」
シアが尋ねる。
「おそらく。軽くして持ち上げ、落とす時に重くしているのでしょう」
「落ちる前に燃やせばいい」
「大きな岩が燃えてなくなるとは限りません」
「砕く」
「砕けば数が増えます」
「全部砕く」
「話を聞いてからにしてください」
セトは荷物を持ち上げた。
「行くぞ」
四つの分霊核が、三人の後を追った。
◆ 浮かぶ岩
平原へ近づく前から、異変は見えた。
道の先にある岩が、地面から少し離れている。
最初は、遠近のために浮いて見えるだけかと思った。
近づくと、その下には明確な隙間があった。
拳ほどの石が、草の上で揺れている。
さらに先には、荷車ほどの岩が三つ浮かんでいた。
風が吹くたび、重さを失った岩がゆっくりと横へ流される。
「軽い」
シアが小石をつかんだ。
指先で押すだけで、石は高く上がった。
「普通の石と同じに見えます」
セトが言う。
「物質そのものが変わったのではなく、重さだけを変えられています」
ネアは小石へ銀青色の線を伸ばした。
「今は、ほとんど重さがありません」
その瞬間、小石が落ちた。
地面へ当たる。
小さな石であるにもかかわらず、土へ深い穴が開いた。
「落ちる時だけ重い」
シアが穴をのぞき込む。
「当たったら痛いでは済みませんね」
◆ 重さを変える王
避難した採石場の奥では、無数の岩が空へ浮かんでいた。
大きなものは家ほどある。
小さなものは砂粒に近い。
それらが、地面から空までを埋めるように漂っている。
中心に、一人の姿があった。
灰色の衣をまとった人影だった。
身体の周囲では、石がゆっくりと上下している。
「重の精霊王」
セトが呼びかける。
人影が三人を見る。
「軽いものが来た」
「私たちは普通」
シアが答える。
「すべてのものには重さがある」
重の精霊王は片手を上げた。
足元の岩が地面を離れる。
「重さがあれば落ちる。軽ければ上がる」
「それを繰り返して、何をしている」
セトが尋ねる。
「衝撃を作っている」
浮かんでいた岩が一つ、突然落下した。
地面が揺れる。
岩の半分が土へ埋まり、周囲へ亀裂が走った。
※第38話「重さと結晶」は全七回です。
続きます。
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