(六)動きを止める月
◆ 地形を読む
作業は日が暮れるまで続いた。
ネア自身は、土の精霊王が集める力を監視する。
黒い分霊核は、離れた川と街道の変化を読み続ける。
土の精霊王が少し強く押せば、ネアが分散させる。
足りなければ、流れを一か所へ集め直す。
川が元の位置へ戻っても、同じ深さにはしない。
水が急に増えないよう、流れを細く保つ。
街道の高さが戻っても、ひびの入った石はそのままだ。
兵士と住民が、後から修復できる形で止める。
「全部、元と同じにはならない」
シアが言った。
「すでに一度動いていますから」
「失敗?」
「戻せる範囲を戻しました」
◆ 保つことを覚える
土の精霊王の人影は、地面へ半分沈んでいた。
「これからは動かさない?」
シアが尋ねる。
「大地は動く」
「また同じことする?」
「ここではしない」
「ほかならする?」
「そこに何があるかを見る」
ネアが土の人影へ向き直る。
「見た後に、残すものがあるなら?」
「動かさない」
「動かさなくても、大地の役割を果たせます」
「保つ」
「ええ」
土の精霊王は、崩れかけた川岸へ力を通した。
土が固まり、水へ削られにくい形になる。
「これは動かしていない」
「支えています」
「大地を保っている」
◆ 一核の使い方
土の精霊王が地面へ戻った後も、ネアは黒い分霊核を動かし続けた。
自分の足元にある土を観測する。
分霊核を川岸へ寄せ、そこから別の線を伸ばす。
二つの位置から、異なる場所の流れを同時に整える。
「私のより地味」
シアが言った。
「比較する必要がありますか」
「私のは燃える」
「月の力で燃やす予定はありません」
「でも、便利」
「ええ」
ネアは素直に認めた。
「わたし一人では、どちらかへ移動する必要がありました。分霊核があれば、離れた場所へ制御を残せます」
「強くなった?」
「力そのものは変わっていません」
◆ 二つの手
ネアは黒い分霊核を手元へ戻した。
内部には、まだ銀色の線が残っている。
「使った量は?」
セトが尋ねる。
「かなり残っています」
「私の時より減ってない」
シアが黒い分霊核を見る。
「攻撃へ使っていませんから」
「私も守るのに使った」
「あなたは守りながら、かなり攻撃していました」
「勝つため」
「今回は、止めるためです」
黒い分霊核は、ネアの肩の少し後ろで静止した。
ネアは、シアのように分霊核を周囲へ大きく回さず、必要な位置へ移して、そこで止めておく。
シアとは違う、ネアの使い方だった。
◆ 次の候補
翌朝、兵士から二通の伝言が届いた。
一つは、小さな赤い宝玉に関するもの。
もう一つは、別の地域で見つかった黒い宝玉に関するものだった。
「二つ目」
シアが赤い玉の情報を取る。
「まだ候補です」
ネアは黒い玉の伝言を読む。
「でも、探し方は分かってる」
「ええ。最初よりは早く確認できるでしょう」
セトは二つの場所を地図で確かめた。
方向は異なるが、どちらも次の異変が報告されている地域へ向かう途中にある。
「順に確認する。外れなら、そのまま次へ進む」
「両方、本物がいい」
シアが言う。
「都合よくはいかないでしょう」
◆ 動きを止める月
三人が平原を離れる頃、川は元の方向へ流れていた。
街道はまだ壊れている。
畑にも水が残っている。
すべてが元どおりになったわけではない。
それでも、大地はもう勝手に持ち上がらず、沈まなくなっていた。
遠くでは、土の精霊王が崩れた斜面を固定している。
新しい山を作るためではない。
今ある土地を保つために。
ネアの周囲では、最初の月の分霊核が静かに浮かんでいた。
一つの場所で土の精霊王を止めながら、別の位置から川と街道を守る。
力が増えたのではない。
ネアの制御を置ける起点が、二つになっていた。
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