(五)動かすより難しい
◆ 第二の観測点
「そこにいないのに、分かる?」
シアが尋ねる。
「分霊核から力を通した場所なら」
「もう一人のネア」
「違います」
ネアは即座に否定した。
「考えているのは、わたし一人です」
「でも、二つの位置から見てる」
「ええ。わたし自身と、分霊核の位置からです」
分霊核は判断しない。
土の変化を見つけ、自動的に止めたわけでもない。
ネアが川底へ線を伸ばし、変化を読み、止める方法を選んでいる。
ただ、そのための手を、離れた場所へもう一つ置ける。
「シアの時とは違う使い方だな」
セトが言う。
「属性も、得意なことも違いますから」
◆ 動かせない大地
土の精霊王は、本体から力を出そうとする。
ネアが戻す。
街道へ圧力を加える。
黒い分霊核が分散させる。
川底を持ち上げる。
分霊核から伸びた別の線が横へ流す。
畑を沈めようとすれば、シアが住民を退避させた後、ネアが線の一部を回して止める。
土の精霊王が作用する場所は広い。
だが、力の流れは無限ではない。
複数へ分けるほど、一か所ごとの変化は小さくなる。
ネアは大きな流れを自分で押さえ、離れた変化を分霊核から整えた。
少しずつ、地面の揺れが弱くなっていく。
◆ 大地を壊す王
「なぜ止める」
土の精霊王が尋ねる。
「同じ説明を繰り返す必要がありますか」
「変化がなければ、新しいものは生まれない」
「変化をなくすとは言っていません」
「止めている」
「今、この場所を壊す変化を止めています」
「同じことだ」
「違います」
ネアは本体へ戻る力を少し強めた。
「大地は、あなたが動かさなくても変わります。川は土を運び、山は崩れ、植物は根を張ります」
「遅い」
「今ある生命が対応できる速さです」
「新しい生命は増えにくい」
「新しいものだけが、今あるものより重要なのですか」
◆ 土のもう一つの役割
ネアは足元の地面を見る。
「土の力は、動かすことだけではありません」
「動かせる」
「固定することもできます」
土の精霊王は答えなかった。
「形を保ち、崩れないよう支え、圧力を受け止める。それも、あなたの知識にあるはずです」
「止まった大地は変わらない」
「変わる必要がない間、保つことができます」
「新しいものは生まれない」
「今あるものが生きる時間を作れます」
ネアの言葉に合わせるように、黒い分霊核から伸びた線が川岸を支えた。
崩れかけていた土が固定され、水の流れが安定する。
◆ 作る前に残す
「創世期には、山を作ることが必要だったのでしょう」
セトが言う。
「今は、その山の上にも人が住む」
「人間だけではありません」
ネアが続ける。
「木も、動物も、魔物も、精霊もいます。新しい場所を作る前に、そこに残すべきものがないか確かめてください」
「確認している間、大地は動かない」
「それで困るほど、今の世界は未完成ではありません」
土の人影が、川と畑の方角へ顔のない頭を向けた。
人が避難している。
倒れた木がある。
流れを変えられた川がある。
大地が動いた後に残ったものを、初めて確かめているようだった。
◆ 変化を戻す
「ここは戻す」
土の精霊王が言った。
「一度に動かさないでください」
ネアがすぐに止める。
「戻すのに?」
「急に戻せば、建物や川がもう一度壊れます」
「では、どう戻す」
「わたしの線に合わせてください」
ネアは本体へ戻していた力を緩める。
その代わり、黒い分霊核から川と街道へ細かな線を広げた。
土の精霊王が地面を持ち上げる。
ネアが量を抑え、傾きを整える。
沈んだ川床を少しずつ戻し、元の流れへ水を導く。
持ち上がった街道も、一度には下げない。
積まれた石が崩れない速さで、地面を元の高さへ近づけていく。
◆ 動かすより難しい
「遅い」
土の精霊王が言う。
「必要な速さです」
「一度に戻せる」
「戻した結果、道が崩れれば意味がありません」
シアが傾いた荷車を支えながら言う。
「全部動かすより、こっちの方が難しい」
「氷の時も言っていましたね」
ネアが答える。
「全部溶かすより、少しずつ戻す方が難しかった」
「壊す方が簡単」
「大きく変える方が、細かく整えるより簡単な場合は多いでしょう」
土の精霊王は、ネアが引いた線に沿って地面を動かし続けた。
先ほどまでの揺れより、はるかに小さい。
※第37話「大地を動かす王」は全六回です。
続きます。
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