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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第37話 大地を動かす王

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(四)黒い制御点

◆ 黒い制御点


「分霊核を、街道側へ」


 セトが言う。


「そのつもりです」


 黒い玉が、ネアから八メートルほど離れた。

 街道までは、そこからさらに距離がある。

 ネアは分霊核を起点に、銀色の線を地面へ通した。

 自分から直接伸ばすより、街道の隆起へ近い位置から力が広がる。


 持ち上がっていた地面へ線が絡み、土の力を左右へ分散させた。

 荷車の下で、隆起が止まる。

 同時に、ネア自身は目の前の土の人影を押さえ続けている。


「二つとも止まった」


 シアが言った。


「今のところは」


 ネアの眉がわずかに寄る。


◆ 二つの違う制御


 本体を押さえる力と、街道を止める力は同じではなかった。

 本体には、土の精霊王が集める力を吸収し、外へ逸らす必要がある。

 街道では、すでに動き始めた地面の圧力を分散し、荷車が倒れない形へ戻す必要がある。

 同じ術を二か所へ置くだけでは足りない。


 ネアは自分の両手をわずかに動かした。

 右側の羽衣が本体へ向かう線と重なる。

 左側の羽衣は、分霊核へ続く線に沿って揺れた。


「別々に動かしてる」


 シアが言う。


「ええ」

「難しい?」

「簡単ではありません」

「できてる」

「分霊核が一つなら、まだ扱えます」


◆ 大地の反撃


 土の精霊王が、さらに力を広げた。

 川岸が割れる。

 丘の斜面から石が落ちる。

 街道の隆起とは別に、畑の中央が沈み始めた。


「三つ目」


 シアが畑へ走る。

 赤い分霊核が先行し、崩れた土の前へ炎の壁を作った。

 火で大地の動きを止めることはできない。

 だが、落下する石を砕き、避難する人間へ届くものを防げる。


「人は私が守る」

「お願いします」


 ネアは本体と街道から意識を外さない。

 セトも荷車へ駆け寄り、傾いた荷台から住民を下ろす。

 土の精霊王は、誰かを狙っていない。

 そのため、どこへでも作用できた。


◆ 広ければよい


「すべてを止める必要はない」


 土の精霊王が言う。


「一つでも動けば、大地は変わる」

「一つでも残せばよいということですか」

「広いほどよい」


「細かな形は?」

「後から決まる」

「そこに何があるかは?」

「動いた後で変わる」


 ネアの銀青色の瞳が、わずかに細くなる。


「あなたは、作った後の結果しか見ていません」

「結果として生命が増える」

「消えた生命を数えていないからです」

「消えたものは数えられない」

「数えようとしていないだけです」


 土の人影の周囲で、地面が強く震えた。


◆ 本体を固定する


 ネアは本体へ向けていた線を集めた。

 吸収するだけではない。

 土の精霊王が地面へ力を広げる経路を読み、一つずつ外側から閉じていく。


 川へ続く流れ。

 丘へ続く流れ。

 街道へ続く流れ。


 すべてを断てば、大地の中へ圧力が残る。

 ネアは流れを切らず、自分の周囲へ回すように曲げた。

 土の精霊王が外へ押し出した力が、地面へ入る前に円を描いて戻る。


「動かない」

「動かせないようにしています」

「広げる場所がない」

「同じ場所へ戻しています」


 土の人影の輪郭が崩れかけ、すぐに固まった。


◆ 川の底


 その時、分霊核から伝わる感覚が変わった。

 街道ではない。

 さらに先にある川の底へ、強い力が集まっている。


「ネア」


 セトも川の音に気づいた。

 流れが急に弱くなっている。

 川底が持ち上がり、上流の水をせき止め始めていた。

 街道の隆起を止めたまま、川底まで制御するには、黒い分霊核から出している線を分ける必要がある。


「分けられる?」


 シアが尋ねる。


「やります」


 ネアは分霊核へ意識を向けた。

 黒い玉から伸びる銀色の線が二つへ分かれる。

 一方は街道を押さえる。

 もう一方は川へ向かう。


◆ 分霊核から見る川


 黒い分霊核は川を直接見ていない。

 目も、意思もない。

 それでも、ネアの力が川底へ触れれば、そこにある原光の流れがネアへ返ってくる。


 自分の足元とは違う場所。

 違う角度。

 違う深さから、川底の変化を捉えられる。


「見える」


 ネアが小さく言った。


「何が?」

「川の下です」


 持ち上がろうとしている土の層。

 その下へ流れ込む圧力。

 ネアは正面の本体を押さえながら、分霊核側の線で圧力だけを横へ流す。

 川底の隆起が止まった。

 せき止められかけていた水が、再び流れ始める。



※第37話「大地を動かす王」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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