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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第37話 大地を動かす王

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(三)月と土

◆ 大地の活性化


「なぜ、土地を動かしているのですか」


 ネアが尋ねる。


「大地は動く」


 土の精霊王の声が答えた。


「動かなければ、同じ形のまま古くなる」

「山や川は、今も少しずつ変化しています」

「遅い」

「何を急いでいるのですか」

「山を作る。山を崩す。陸を海へ沈める。海の底を陸へ上げる」


 地面が小さく震える。


「大陸を動かせば、海が分かれる。土地が離れれば、生命も分かれる。違う場所で、違うものが生まれる」

「そのために、ここを沈める?」


 シアが畑を指した。


「ここでなくてもよい。だが、ここでもよい」


◆ 創世期の理屈


「世界が形を持つ前なら、必要だったでしょう」


 ネアが言う。


「何もない大地へ山を作り、海と陸を分ける。土地を離し、異なる環境を作ることも」

「今も必要だ」

「今は、すでに山があります。海も、大陸も、異なる環境で生きる生命もあります」


「増やせる」

「増やすために、今あるものを壊しています」

「壊れた場所には、新しいものが生まれる」


 土の精霊王の声に、悪意はなかった。

 古いものが崩れ、その跡から新しいものが生まれる。

 それだけを見れば、間違いではない。

 だが、今ここで壊されるものには、暮らしている人間と、すでに根を張った生命が含まれている。


◆ 結果だけを見る王


「新しいものが生まれれば、消えたものはどうでもいい?」


 シアが尋ねる。


「消えたものは戻らない」

「だから聞いてる」

「別のものが生まれる」

「同じじゃない」

「同じである必要はない」


 シアの周囲へ、赤い炎が薄く広がる。


「家を潰して、別の家ができればいいって言ってる」

「家は大地ではない」

「家も大地の上にある」


 セトが間へ入る。


「話している間も、川と丘を動かしているな」

「動かすことが役割だ」

「なら、止める」


 地面の震えが少し強くなった。


「止められるなら」


◆ 月と土


 ネアが両腕を広げる。

 羽衣の縁から銀青色の線が何本も伸び、地面へ沈んだ。

 土の精霊王が固定し、押し上げ、形を変えようとしている原光の流れを捉える。


 月の力は、土そのものを砕く力ではない。

 物質へ変化を与える前の流れを吸収し、曲げ、分散させる。

 丘を持ち上げていた力が横へ逸れ、地面の中で薄まった。

 川床を沈めていた力は、複数の方向へ分けられ、深く押し込む圧力を失う。

 二つの土地の動きが止まった。


「止めた」


 シアが言う。


「まだです」


 ネアの視線は、足元へ向いたままだった。


◆ 本体の位置


 動きを止められた土の力が、一か所へ戻り始める。

 川と丘の間にある、平らな地面。

 何も見えなかった場所が、ゆっくり盛り上がった。

 土と石が人の輪郭に近い形を作る。


 完全な身体ではない。

 地面から上半身だけを押し出したような姿だった。

 顔に当たる部分には、目も口もない。

 それでも、声はそこから聞こえた。


「月は、大地の動きを止める」

「永遠に止めるわけではありません」


 ネアは土の人影へ線を集中させる。


「今、あなたが加えている変化を止めています」

「ここを止めても、ほかを動かせる」

「試してみてください」


◆ 離れた隆起


 土の精霊王の人影が、地面へ手を触れた。

 ネアの近くにある力は動かない。

 銀青色の線が絡み、土へ変換される前の流れを押さえている。


 代わりに、街道の向こうから大きな音が響いた。

 遠く離れた場所で、地面が盛り上がっている。

 避難中の荷車が傾き、人々が声を上げた。


「こっちは止められても、あっちは動く」


 土の精霊王が言う。


「広い場所を動かせば、すべては止められない」


 ネアが遠くを見る。

 今、本体へ向けている制御を外せば、足元の土地が再び動く。

 遠方を放置すれば、街道と荷車が崩れる。


「昨日の私と同じ」


 シアが言う。


「攻撃と防御じゃないけど」

「ええ」


 ネアの横へ、黒い分霊核が浮かび上がった。



※第37話「大地を動かす王」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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