(二)地面からの声
◆ 二つの観測点
ネアは黒い分霊核を八メートルほど離した。
自分の足元と、分霊核の下にある地面へ同時に細い線を通す。
「何をしてる?」
シアが尋ねる。
「石の内部を見ています」
「両方?」
「ええ」
ネアの足元にある石と、黒い分霊核の下にある石。
硬さも、内部のひびも、原光の通り方も異なっている。
ネアは二つの違いを同時に捉えていた。
「頭が二つになった感じ?」
「そこまでは増えていません」
「手が二つ?」
「それは最初からあります」
「もう一人のネア」
「増えていません」
セトが黒い分霊核を見る。
「別の場所へ、ネアの力を置けるということか」
「その表現が近いですね」
◆ 地面が動いた報告
確認を終える前に、町の兵士が空き地へ走ってきた。
「南東の平原から、新しい報告です」
兵士は息を整えながら、折り畳まれた地図を広げた。
「地面の隆起が急に広がっています。街道が途中で折れ、川の流れも変わり始めました」
「土の精霊王」
セトが言う。
「おそらく」
ネアは地図へ視線を落とす。
以前から異変が報告されていた地域だった。
これまでは小さな地割れや、一晩で地面の高さが変わる程度だった。
今朝になって範囲が急に広がったという。
「人の姿は?」
「確認されていません。ですが、地面の近くから声を聞いた者がいます」
「何と言っていた」
「大地を動かしている、と」
◆ 南東の平原
三人はその日のうちに町を出た。
黒い分霊核には、移動しながら少しずつ月の力を蓄える。
夕方になる前に、最初の異変が見えた。
街道が途中から斜めに持ち上がっている。
石を並べて作られた道が、緩やかな坂になったのではない。
途中で折れ、片側だけが数メートル高くなっていた。
「道を作り直してる?」
シアが上を見る。
「道ではなく、その下の地面を動かした結果でしょう」
ネアは崩れた石の隙間へ力を通す。
「かなり深い場所から押し上げられています」
「戻せる?」
「ここだけなら」
「全部は?」
「どこまで続いているかによります」
街道の先には、同じように傾いた地面が何か所も見えていた。
◆ ずれた川
平原を流れていた川は、途中で進路を変えていた。
元の川床には浅い水だけが残り、新しく沈んだ土地へ水が流れ込んでいる。
その先には畑があった。
兵士と住民が土を積み、水を止めようとしている。
「このままでは、夜までに畑が沈みます」
現場を指揮していた兵士が言った。
「上流をせき止めることはできますが、別の場所があふれる可能性があります」
「川を戻します」
ネアが新しい流れへ近づく。
銀青色の線が地面へ沈む。
川床を押し下げている土の力へ触れ、その向きを少しずつ変えていく。
沈み続けていた地面が止まった。
「止まった?」
シアが尋ねる。
「ここは」
遠くで、低い音が響いた。
畑の反対側にある丘が、ゆっくりと高くなり始めていた。
◆ 一か所を止めれば
「向こうへ移った」
セトが言う。
「移ったのではありません」
ネアは川床へ力を残したまま、丘を見る。
「最初から、複数の場所へ作用しています」
丘の斜面が持ち上がり、上に生えていた木が傾く。
ネアが川へ向けていた力を弱め、丘へ細い線を飛ばす。
隆起は止まった。
その瞬間、川床が再び沈み始める。
「片方を止めると、片方が動く」
シアが言った。
「今のままでは、そうなります」
「分霊核」
「ええ。ただ、先に土の精霊王の位置を確かめます」
ネアは黒い玉を自分の近くへ戻した。
◆ 地面からの声
川と丘の間に、何も建っていない場所があった。
地面は平らだが、その下だけ原光の流れが密集している。
ネアがそこへ近づく。
「土の精霊王」
返事はなかった。
シアが地面を踏む。
「いるんでしょ」
足元から、低い声が響いた。
「いる」
地面の一か所から聞こえた声ではない。
川岸、丘、街道。
動いている土地のすべてから、同じ声が返ってきた。
「姿は?」
シアが尋ねる。
「ここにある」
「見えない」
「大地を見ている」
「大地全部がおまえ?」
「すべてではない。動かしている場所は、私に近い」
※第37話「大地を動かす王」は全六回です。
続きます。
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