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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第37話 大地を動かす王

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(二)地面からの声

◆ 二つの観測点


 ネアは黒い分霊核を八メートルほど離した。

 自分の足元と、分霊核の下にある地面へ同時に細い線を通す。


「何をしてる?」


 シアが尋ねる。


「石の内部を見ています」

「両方?」

「ええ」


 ネアの足元にある石と、黒い分霊核の下にある石。

 硬さも、内部のひびも、原光の通り方も異なっている。

 ネアは二つの違いを同時に捉えていた。


「頭が二つになった感じ?」

「そこまでは増えていません」

「手が二つ?」

「それは最初からあります」

「もう一人のネア」

「増えていません」


 セトが黒い分霊核を見る。


「別の場所へ、ネアの力を置けるということか」

「その表現が近いですね」


◆ 地面が動いた報告


 確認を終える前に、町の兵士が空き地へ走ってきた。


「南東の平原から、新しい報告です」


 兵士は息を整えながら、折り畳まれた地図を広げた。


「地面の隆起が急に広がっています。街道が途中で折れ、川の流れも変わり始めました」

「土の精霊王」


 セトが言う。


「おそらく」


 ネアは地図へ視線を落とす。

 以前から異変が報告されていた地域だった。

 これまでは小さな地割れや、一晩で地面の高さが変わる程度だった。

 今朝になって範囲が急に広がったという。


「人の姿は?」

「確認されていません。ですが、地面の近くから声を聞いた者がいます」

「何と言っていた」

「大地を動かしている、と」


◆ 南東の平原


 三人はその日のうちに町を出た。

 黒い分霊核には、移動しながら少しずつ月の力を蓄える。

 夕方になる前に、最初の異変が見えた。


 街道が途中から斜めに持ち上がっている。

 石を並べて作られた道が、緩やかな坂になったのではない。

 途中で折れ、片側だけが数メートル高くなっていた。


「道を作り直してる?」


 シアが上を見る。


「道ではなく、その下の地面を動かした結果でしょう」


 ネアは崩れた石の隙間へ力を通す。


「かなり深い場所から押し上げられています」

「戻せる?」

「ここだけなら」

「全部は?」

「どこまで続いているかによります」


 街道の先には、同じように傾いた地面が何か所も見えていた。


◆ ずれた川


 平原を流れていた川は、途中で進路を変えていた。

 元の川床には浅い水だけが残り、新しく沈んだ土地へ水が流れ込んでいる。

 その先には畑があった。

 兵士と住民が土を積み、水を止めようとしている。


「このままでは、夜までに畑が沈みます」


 現場を指揮していた兵士が言った。


「上流をせき止めることはできますが、別の場所があふれる可能性があります」

「川を戻します」


 ネアが新しい流れへ近づく。

 銀青色の線が地面へ沈む。

 川床を押し下げている土の力へ触れ、その向きを少しずつ変えていく。

 沈み続けていた地面が止まった。


「止まった?」


 シアが尋ねる。


「ここは」


 遠くで、低い音が響いた。

 畑の反対側にある丘が、ゆっくりと高くなり始めていた。


◆ 一か所を止めれば


「向こうへ移った」


 セトが言う。


「移ったのではありません」


 ネアは川床へ力を残したまま、丘を見る。


「最初から、複数の場所へ作用しています」


 丘の斜面が持ち上がり、上に生えていた木が傾く。

 ネアが川へ向けていた力を弱め、丘へ細い線を飛ばす。

 隆起は止まった。

 その瞬間、川床が再び沈み始める。


「片方を止めると、片方が動く」


 シアが言った。


「今のままでは、そうなります」

「分霊核」

「ええ。ただ、先に土の精霊王の位置を確かめます」


 ネアは黒い玉を自分の近くへ戻した。


◆ 地面からの声


 川と丘の間に、何も建っていない場所があった。

 地面は平らだが、その下だけ原光の流れが密集している。

 ネアがそこへ近づく。


「土の精霊王」


 返事はなかった。

 シアが地面を踏む。


「いるんでしょ」


 足元から、低い声が響いた。


「いる」


 地面の一か所から聞こえた声ではない。

 川岸、丘、街道。

 動いている土地のすべてから、同じ声が返ってきた。


「姿は?」


 シアが尋ねる。


「ここにある」

「見えない」

「大地を見ている」

「大地全部がおまえ?」

「すべてではない。動かしている場所は、私に近い」



※第37話「大地を動かす王」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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