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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第37話 大地を動かす王

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(一)黒い宝玉

◆ 黒い宝玉


 伝言に書かれていた店は、町の南側にあった。

 宝石を売る店ではない。

 金属や石を削り、装飾品の部品を作る加工場だった。


「黒くて、小さくて、加工できない玉」


 セトが店主へ伝える。


「ああ。それなら、これでしょう」


 店主は作業台の下から、小さな木箱を取り出した。

 中に入っていたのは、指先ほどの黒い玉だった。

 光を反射しているはずなのに、表面のどこが明るいのか分かりにくい。

 黒い色が外側にあるというより、奥まで暗いものが詰まっているように見えた。


「削ろうとしたのですか」


 ネアが尋ねる。


「穴を開けて、首飾りにするつもりでした。刃が欠けただけでしたが」


 箱の隅には、折れた細い工具が残されていた。


◆ 返らない月の力


「確かめます」


 ネアは黒い玉から数歩離れた。

 羽衣の縁へ、淡い銀色の光が走る。

 薄く広げられた月の力が、加工場の壁、床、工具、積まれた石へ触れて戻ってくる。

 木箱の中央だけ、何も返らなかった。


「これですね」

「もう分かった?」


 シアが黒い玉をのぞき込む。


「ええ。わたしの力だけが吸収されています」


 シアも細い炎の力を近づける。

 赤橙色の力は、黒い玉の表面へ触れ、そのまま戻った。


「私のは入らない」

「月の分霊核ですから」


「黒いと見つけにくい」

「赤ければ見つけやすいわけでもありません」

「私は見つけた」

「商人が候補を三つまで絞った後です」


 シアは少し考えた。


「半分は私」

「かなり多く見積もりましたね」


◆ 加工できないだけの石


 店主は三人の会話を聞きながら、木箱へ目を落とした。


「それは、本当に何かの道具なのですか」

「月の精霊王が使う器です」


 セトが答える。


「今までは、ただの石だったのか」

「力が入っていなかっただけです」


 ネアが言った。


「人間が持っていても、勝手に動くことはありません」

「加工できない理由も、その器だから?」

「おそらくは」


 店主は折れた工具を見る。


「なるほど。腕が悪かったわけではないのか」

「そこまでは分かりません」

「ネア」


 セトが小さく呼ぶ。


「器の方が原因です」


 ネアは言い直した。


「工具の扱いについては判断できません」

「それで十分です」


◆ 二つ目の売買


 黒い玉は、加工場へ持ち込まれた古い装飾品の中に混ざっていた。

 金具は壊れており、ほかの石はすでに取り外されている。

 黒い玉だけが加工できず、処分する理由もなかったため残されていた。


「買い取れますか」


 セトが尋ねる。


「構いません。ただ、正体を聞いた後では、値を付けにくいですね」

「元の石としての値段でお願いします」


 ネアが言う。


「精霊王が使えば価値が変わるからといって、人間が使えない状態の価値まで変わるわけではありません」

「高くしても買うと思う」


 シアが言った。


「シア」

「昨日の人も言ってた」

「言っていましたが、今それを教える必要はありません」


 店主は笑い、最初に考えていた値段を示した。

 セトはその額を支払った。


◆ 月の器


 三人は町の外へ移動した。

 シアの分霊核を試した空き地とは、反対側にある岩場だった。

 周囲には大きな物がなく、力が反射した場合も確認しやすい。


「少しずつ入れます」


 ネアは黒い玉を掌へ載せた。


「ネアなら言われなくても分かってる」


 シアが言う。


「あなたを見た後ですから、なおさら慎重になります」

「壊れなかった」

「壊れなかった結果だけを基準にはしません」


 ネアの指先から、細い銀青色の力が流れる。

 黒い玉は、光を吸い込むように月の力を受け入れた。

 しばらくすると、内部に細い銀色の線が現れた。

 線は円を描くように巡り、黒い玉が静かに浮き上がる。


◆ シアとの違い


 ネアは、シアのように分霊核を周囲へ回さず、掌の上で止めていた。


「動かない」


 シアが言う。


「止めているからです」


 ネアが意識を向けると、黒い玉が右へ滑った。

 上下へ動かす。

 背後へ回す。

 再び正面へ戻す。

 どの動きにも揺れが少ない。


「最初から上手い」

「分霊核を動かした経験はありません」

「でも、私より上手い」

「力を離れた位置で制御することには慣れています」


 ネアは黒い玉から銀色の線を伸ばした。

 線は岩へ触れ、表面をなぞってから消える。


「攻撃より、こっちの方が合っていますね」



※第37話「大地を動かす王」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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