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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第36話 氷の世界

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(五)ほぼ一方的な制圧

◆ 近づけない王


 氷の精霊王が地面を凍らせる。

 シアの足を固定しようと、白い氷が靴へ絡みついた。

 分霊核が足元へ下がる。

 氷だけを溶かし、シアの前進を止めない。

 上から氷柱が落ちる。

 赤い玉が頭上へ移り、熱の膜で受ける。

 正面へ氷壁が立つ。

 シア自身の炎が壁を砕く。


 氷の精霊王が距離を取ろうとするたび、分霊核が別の側へ回った。

 攻撃が来るかもしれない位置を無視できず、動きが遅れる。

 シアは一度も、防御のために攻撃を止めなかった。

 白い人影まで、あと一歩になる。


「止まれ」


 シアの拳が、氷の精霊王の胸元で止まった。

 炎はまとっているが、触れてはいない。


◆ ほぼ一方的な制圧


 氷の精霊王が腕を動かす。

 分霊核が背後へ回り、炎の輪を作った。

 後ろへ下がれば、その輪へ触れる。

 横へ動けば、シアの拳が届く。

 正面にはシアがいる。


 氷の精霊王は周囲を凍らせようとした。

 赤い玉の炎が地面を温め、凍結を止める。

 シアの炎は、目の前で消えない。


「まだやる?」

「火の量が増えた」

「増えてない」


 シアは即座に否定した。


「私の火は昨日と同じ。もう一か所が動いてるだけ」

「二つある」

「一つは私。一つは分霊核」


 氷の精霊王は、シアの肩越しに赤い玉を見る。


「防ぎながら、攻撃していた」

「そう」


◆ 反撃できない理由


 氷の精霊王は、もう一度だけ冷気を集めた。

 シアの正面へ向けたものではない。

 背後の川を凍らせ、そこから氷を持ち上げようとしている。


 分霊核が先に動いた。

 川面へ薄い炎を広げ、氷が形を作る前に崩す。

 その間も、シアは氷の精霊王の前に立ったままだった。


「そっちを止めたら、こちらが空く」


 氷の精霊王が言う。


「空かない」


 シアの掌に炎が灯る。


「私がいる」


 氷の精霊王は、分霊核へ冷気を向けようとした。

 その瞬間には、シアの炎が正面から近づく。

 シアを止めれば、分霊核が川を守る。

 分霊核を止めようとすれば、シアが攻める。

 どちらか一方へ力を集中しても、もう一方の役割が残った。

 氷の精霊王は、集めた冷気を解いた。


「続けても、広げられない」

「そう」

「火が強いからではない」

「さっき言った」


◆ 勝つためではなく


 セトとネアが近づく。

 氷の精霊王は攻撃しなかった。

 シアも拳の炎を消す。

 ただし、分霊核の炎は足元に残した。


「倒しに来たのではありません」


 ネアが言う。


「なら、なぜ止める」

「寒さが必要だからこそ、残す場所を選んでもらうためです」

「広い方がいい」

「広げた先に、すでに別の役割で成り立つ場所があります」


 ネアは山の下を見る。

 白く凍った集落、その先のまだ緑が残る土地。


「今の世界は、何もない大地ではありません。寒さを作るだけで循環を始める段階は、もう終わっています」

「循環は必要だ」

「ええ。だから、山の寒さまで消そうとはしていません」


◆ 以前から寒い場所


 三人は氷の精霊王を連れ、少し山を上った。

 そこには、古い道標が半分雪へ埋もれていた。

 兵士が持っていた地図では、以前から雪が残る範囲の下端に当たる。

 道標より上では、背の低い木と白い地面が続く。

 下では、凍った森が広がっている。


「ここから上は、前から寒かった」


 セトが言う。


「ここから下は?」

「季節が変われば雪が溶け、川が流れ、植物が育つ場所です」


 氷の精霊王は、道標の上下を見る。


「寒さをここで止める」

「止めたら、役割を果たせない?」


 シアが尋ねる。


「寒い場所は残る」

「なら果たせる」

「広げなくても?」

「足りてるなら」


◆ 程度を知る


「何をもって、足りていると判断する」


 氷の精霊王が尋ねる。


「一つだけの基準では決められません」


 ネアが答えた。


「雪が残る範囲、川の流れ、そこで生きるもの、山の下で暮らすもの。今あるものを見て決めます」

「役割だけでは決められない」

「はい」

「人間が決めるのか」

「人間だけでもありません。あなたも見て、知る必要があります」


 氷の精霊王は、道標へ手を触れた。

 新しい氷が表面へ薄く広がる。

 そこで止まった。


「ここから下へは広げない」

「今は、で終わらせないでください」

「下にあるものを知るまで、広げない」


 完全に理解したわけではない。

 それでも、役割を実行する前に、そこに何があるかを見るという一つの条件を受け入れた。



※第36話「氷の世界」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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