(四)交互の砲撃
◆ 思ったように動く
氷の精霊王が横へ移動する。
白い霧へ姿が紛れた。
シアは炎を止め、周囲を見る。
背後で氷が鳴る。
分霊核がシアの意思に合わせて回り込み、後方へ熱の壁を作った。
突き出た氷柱が壁へ触れ、途中で止まる。
シアは振り向かず、前方の霧へ炎を広げた。
熱で霧が薄くなり、離れた場所に白い人影が見えた。
「分霊核、思ったよりも溜められるし、思ったように動かせる」
「戦闘中に確かめることではありません」
「今が一番分かる」
分霊核は、シアの斜め後ろへ位置を変える。
防御を保ったまま、次の移動へ備えていた。
◆ 二つの位置
「離れた」
シアが言う。
氷の精霊王は、十歩近く先にいる。
正面から炎を放てば、氷壁で受けられる距離だった。
シアは分霊核を右側へ動かす。
自分と赤い玉の間を広げ、氷の精霊王を二つの位置から挟む。
「両方からは撃てない」
セトが確認する。
「分かってる」
シアは自分の掌から火を放った。
氷の精霊王が正面へ壁を作る。
炎を止める。
ほとんど間を置かず、右側の分霊核から火が放たれた。
氷の壁の側面が赤く染まる。
氷の精霊王は右へ新しい壁を作った。
その瞬間、シアは攻撃の起点を自分へ戻した。
◆ 交互の砲撃
正面から火が走る。
氷の精霊王が正面を守る。
シアが止める。
次は分霊核から、横へ火が走る。
同時ではない。
だが、氷の精霊王が一方へ防御を厚くするたび、もう一方から攻撃が来る。
壁を作る位置を変えるたびに、氷の精霊王は後ろへ下がった。
「二つとも、同じくらい強い」
シアが言う。
「分霊核側は多少落ちています」
「でも、足りる」
再び正面から炎を放つ。
氷壁が薄くなったところで止め、分霊核側へ切り替える。
横から受けた熱で壁が崩れた。
氷の精霊王の白い腕へ、炎が届く寸前で止まる。
「まだ広げる?」
「寒い場所は必要だ」
◆ 防御を置いていく
氷の精霊王は、シアの正面から外れるように斜面を移動した。
足跡の周囲から新しい氷が広がり、シアとセトたちの間を分断しようとする。
シアが振り返るより先に、分霊核が後方へ移った。
赤い玉は、セトとネアの前へ熱の膜を残す。
伸びてきた氷が膜の手前で溶けた。
「こっちはいい」
セトが言う。
「前を見ろ」
シアはうなずき、氷の精霊王を追う。
分霊核はシアから離れすぎない位置を保ちながら、後方の防御を動かした。
シアが前へ進めば、膜も少しずつ前へ移る。
守る場所を完全に置き去りにはできない。
それでも、自分の身体から離れた位置へ防御を置き、そのまま攻撃へ進める。
「十歩より先へ出すな」
「分かってる」
「昨日、十メートルと言っていました」
ネアが訂正する。
「戦っている時に測れない」
「だから余裕を持ってください」
◆ 逃げる先
氷の精霊王は、凍った滝の上へ移った。
さらに距離を取り、周囲の冷気を集める。
川全体から氷が持ち上がり、無数の尖った塊となった。
「数が多い」
セトが前へ出ようとする。
「大丈夫」
シアは分霊核を自分たちの前へ置いた。
赤い玉から、広い炎の壁が作られる。
飛んできた氷が、壁へ触れるたびに小さくなる。
溶け切らなかったものだけを、セトが白刃で切り落とした。
シアは防御へ力を向けず、両手の間へ火を集め続ける。
氷の精霊王が攻撃を終えた時には、シアの炎がすでに形を持っていた。
「防いでから攻撃するんじゃない」
シアが言う。
「防いでる間に、攻撃できる」
◆ 火の直線
シアが両手を前へ出した。
集めた炎が、太い直線となって滝の上へ走る。
最大出力ではない。
以前からシアが放てた範囲の攻撃だった。
だが、氷の攻撃へ対応した直後ではなく、防御と同じ時間に準備されていた。
氷の精霊王は、新しい壁を作るのが遅れた。
火が白い人影の横を通り、背後の氷を大きく溶かす。
足場が崩れ、氷の精霊王が川岸へ下りた。
シアは分霊核を反対側へ回す。
氷の精霊王が正面のシアを見た瞬間、横の赤い玉が強く光った。
人影が横へ向く。
その間にシアが距離を詰めた。
※第36話「氷の世界」は全六回です。
続きます。
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