(三)もう一つの防御
◆ 相性の答え
火と氷は、単純に一方だけが強い関係ではない。
シアの炎は氷を溶かせる。
だが、広い範囲を冷やし続けられれば、炎を作るたびに熱を奪われる。
氷の精霊王の冷気も、シアの炎へ触れれば弱まる。
どちらも、相手の作用を直接打ち消せる。
「長く続けた方が勝つ?」
シアが尋ねる。
「同じ場所だけで押し合えば、そうなるかもしれません」
ネアが答えた。
「でも、向こうは周囲全部を冷やしている」
「ええ。正面だけを溶かしても、別の方向から冷気が入ります」
「樹の時と同じ?」
「似ています。ただし、今回は一つ増えています」
シアの肩の後ろで、分霊核が赤く光る。
「分かってる」
シアは氷の精霊王から目を離さなかった。
◆ 最初の冷気
シアは地面へ炎を落とした。
迫っていた氷が溶け、水蒸気が白く上がる。
次の瞬間、その水蒸気まで凍り、細かな氷の粒となって降った。
「消しても戻る」
「向こうも冷やし続けています」
ネアが冷気の流れを見る。
氷の精霊王は、周囲一帯へ力を広げていた。
シアが正面の氷を溶かしている間に、左右から冷気が回り込む。
足元を守れば、上から氷の塊が落ちる。
上を焼けば、地面が固まる。
以前なら、攻撃へ移るたびにどこかの防御を止める必要があった。
「分霊核に足元を守らせろ」
セトが言った。
「分かってる」
シアの肩の後ろから、分霊核が前へ出た。
◆ 以前なら止まる場所
氷が足元へ迫り、頭上では凍った枝が折れた。
正面には、氷の精霊王が新しい壁を作っている。
以前のシアなら、どれか一つを選ぶ必要があった。
前へ火を放つか。足元を溶かすか。落ちてくる氷を防ぐか。
一つを処理してから、次へ移る。
その短い切り替えの間に、相手は距離を取り、別の冷気を広げられる。
「全部、自分でやろうとするな」
セトが言った。
「一個しか増えてない」
「一個ある」
シアは一瞬だけ分霊核を見た。
「じゃあ、足元」
赤い玉が下がる。
シア自身は、氷の精霊王へ向けて両手を開いた。
◆ もう一つの防御
赤い分霊核が、三人の足元近くまで下がる。
玉の周囲に薄い炎の膜が広がった。
冷気が膜へ触れ、水へ変わる。
水はすぐに凍ろうとしたが、分霊核の炎が途切れず、地面へ流れていった。
「足元は任せる」
シアは自分の炎を正面へ集めた。
氷の精霊王との間に立ち上がった氷柱を、まとめて溶かす。
左右から回り込んだ冷気は、分霊核が作る熱の膜へ押し返された。
「攻撃を止めていません」
ネアが言う。
「昨日、試した通りだ」
セトは白刃を構えながらも、シアの前へは出なかった。
今は、分霊核一個で何が変わったのかを見る必要がある。
「そのまま近づけ」
「分かった」
◆ 攻め続ける火
シアが一歩進む。
氷の精霊王は、地面から壁を立ち上げた。
厚い氷が視界を塞ぐ。
シアは立ち止まらず、拳へ炎をまとわせた。
一撃で中央を砕き、熱で穴を広げる。
壁の向こうから、細い氷の柱が何本も伸びた。
分霊核がシアの横へ移る。
炎の膜が柱を受け、先端から溶かした。
シアは防御へ手を戻さない。
穴を抜け、さらに前へ進む。
氷の精霊王が後ろへ下がった。
「前より楽」
「油断しないでください」
「してない」
返事をしながら、シアは次の氷壁を焼き抜いた。
◆ 氷の壁
氷の精霊王が両手を広げる。
滝を覆っていた氷が剥がれ、巨大な板となって倒れてきた。
シアは上を見た。
自分の炎を上へ向ければ、正面への攻撃が止まる。
「分霊核、上」
赤い玉がシアの頭上へ移る。
炎の膜が広がった。
落ちてきた氷は膜へ触れた場所から溶け、左右へ割れて落ちる。
その間も、シアは氷の精霊王へ火を放ち続けた。
白い人影の前へ氷の盾が生まれる。
炎が盾を削る。
盾を厚くするため、氷の精霊王の力が正面へ集まった。
山の下へ流れていた冷気が、わずかに弱まる。
「効いてる」
「ええ。攻撃を受け続けるため、領域の拡大へ回す力が減っています」
※第36話「氷の世界」は全六回です。
続きます。
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