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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第36話 氷の世界

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(一)冬の境界

◆ 凍った朝


 翌朝、三人は町を出た。

 山へ近づく前から、道の端に白いものが残っていた。

 雪ではない。

 夜露が凍り、草の一本一本を薄い氷が覆っている。

 日が昇ってからかなり経っているのに、溶ける気配はなかった。


「ここは、まだ寒冷地ではありません」


 ネアが地図と周囲を見比べる。


「以前の記録では、この辺りまで雪が残るのは冬だけです」

「今は冬じゃない」


 シアは道脇へしゃがみ、凍った草へ指を近づけた。

 指先に小さな火が灯る。

 氷が溶け、水滴が葉を伝った。

 その水滴は地面へ落ちる前に、もう一度凍った。


「冷やし続けてる」

「ええ。氷が残っているのではなく、この土地そのものが今も冷やされています」


 シアの肩の後ろで、赤い分霊核がゆっくり回った。

 町を出てから、シアは休憩のたびに少しずつ力を蓄えている。

 赤い光は、手に入れた直後よりも明るくなっていた。


◆ 山へ向かう道


 道を進むほど、季節が逆戻りしていく。

 霜に覆われた草が消え、代わりに雪が積もり始めた。

 木々の葉は凍り、枝は白く固まっている。

 まだ葉を落とす時期ではない木まで、動きを止めていた。


「山の上だけなら、普通なのか」


 セトが尋ねる。


「上の方には、元から雪の残る場所があります」


 ネアは山腹を指した。


「ですが、今の境界は低すぎます。報告を受けた時よりも、さらに下へ広がっています」

「どれくらい速い?」

「一日で、森の端からここまでです」


 シアが前を見る。

 街道の先は、白い霧に隠れていた。


「樹の精霊王より遅い」

「比較する対象がおかしいです」

「止めやすい?」

「範囲だけで判断しないでください」


 冷気は、木や道だけを増やしているのではない。

 そこにあるすべてから熱を奪い、動きを止めている。


◆ 冬の境界


 山裾の集落は、すでに人がいなくなっていた。

 兵士たちが家々を確認し、残された家畜を低地へ運び出している。

 井戸の水は表面だけでなく、奥まで凍っていた。


「住民は?」


 セトが兵士へ尋ねる。


「昨日のうちに避難させました。今朝までは、この広場に雪はありませんでした」


 兵士は、広場の中央に立つ石柱を示した。

 柱の半分まで氷に覆われている。


「山の上から、白いものが下りてきたという話もあります」

「白いもの?」

「人の形です。近づいた者を追ってはきません。ただ、道を塞ごうとすると、地面ごと凍らされます」


 セトは以前の報告にあった記述を思い出した。

 雪の中心に立つ、白い人影。


「氷の精霊王で間違いなさそうだ」

「止める?」


 シアが尋ねる。


「ああ。ただし、氷そのものをなくすためじゃない」

「分かってる。下へ広げるのを止める」


◆ 凍った森の中


 集落の裏手には、小さな林があった。

 木々は白く固まり、風が吹いても枝が揺れない。

 地面には、途中まで掘り返された跡が残っていた。


「何の跡だ」


 セトが兵士へ尋ねる。


「小動物の巣です。昨日までは中にいたようですが」

「今は?」

「見つけられたものは運び出しました。ただ、全部かどうかは分かりません」


 ネアが地面へ線を伸ばす。

 表面だけではなく、土の中まで冷えている。

 根は水分ごと固定され、細いものから傷み始めていた。


「寒い土地にも生命はあります」


 ネアが言う。


「ですが、暖かい土地にいたものを急に凍らせれば、その環境へ変わる前に死にます」

「寒さに合うものが来るまで、何もいなくなる」


 シアは白い林を見た。


「新しい生命が入る場所を作っているのではありません。今ある場所を一度空にしています」


 氷の精霊王に悪意がなくても、起きていることは災害だった。



※第36話「氷の世界」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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