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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第35話 最初の分霊核

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(五)最初の一つ

◆ 二倍ではない


「力は増えた?」


 シアが尋ねる。


「持てる量は増えました」


 ネアが答えた。


「シア自身の力とは別に、分霊核の中へ蓄えた分も使えます」

「玉から出した火は弱かった?」

「多少は落ちていますが、シア自身から放ったものとほぼ同等です」


 シア自身と分霊核。どちらを起点にしても、同程度の攻撃を放てる。

 ただし、現在のシアには、二つの攻撃を同時に成立させることはできなかった。


「なら、こっちから撃った後、すぐ向こうから撃てる」

「ええ。攻撃する位置を切り替えられます」

「大きい攻撃も?」

「それぞれを起点にはできるでしょう。ただし、片方を放ってから、もう片方へ切り替えることになります」

「順番なら撃てる」

「分霊核へ十分な力が残っていれば」


 分霊核を得たことで、シア自身の一撃が二倍になったわけではない。

 ほぼ同じ力を出せる別の起点と、力を残しておく器が一つ増えた。


「樹海で足りなかったものだ」


 セトが言う。


「ええ。別の場所へ攻撃を切り替えられることと、本体が攻撃している間に、分霊核を防御へ使えることが重要です」


◆ 宝石ではなくなったもの


 試験を見ていた宝石商は、シアの周囲を回る赤い玉を見上げた。


「店にあった時とは、まるで違いますね」

「中に力が入ったから」


 シアが答える。


「もう宝石ではないのですか」

「人間から見れば、今でも赤い玉でしょう」


 ネアが言った。


「ただ、火の精霊王にとっては、本来の器として働き始めました」

「売った後で惜しくなりましたか」


 商人が尋ねる。

 宝石商は少し考えた。


「店に置いたままでは、一度も浮かなかったでしょう。正体が分かった方がよい」

「値段は上げない?」


 シアが聞く。


「もう売りました」

「いい商人」

「そう言っていただけるなら、次に似た物を聞いた時も連絡します」


◆ 最初の一つ


 商人と宝石商が町へ戻った後も、三人は空き地に残った。

 シアは分霊核を動かし続ける。

 前後へ移す。地面近くへ下げる。頭上へ上げる。


 自分から炎を放った後、分霊核へ攻撃の起点を切り替える。

 分霊核を防御へ使いながら、自分の炎を維持する。

 動きは少しずつ滑らかになった。


「名前は付けないのか」


 セトが尋ねる。


「誰かじゃないから付けない」


 シアは迷わず答えた。


「分霊核は分霊核」

「区別が必要になるほど増えたら?」


 ネアが尋ねる。


「一つ目、二つ目」

「そのままですね」

「分かりやすい」


 最初の一つは、シアの肩の後ろをゆっくり回った。


◆ 蓄える時間


 その日の残りは、分霊核へ力を蓄えながら過ごした。

 シアが一度に入れようとするたび、ネアが止める。

 少量を入れ、動かす。出した分を確かめる。再び蓄える。

 急に満たすのではなく、器がどれほど受け入れられるかを調べながら進めた。


「まだ入る」

「今日はここまでです」

「もっと入る」

「入ることと、今入れることは別です」

「明日使うかもしれない」

「だからこそ、安全を確かめる前に最大まで入れる理由はありません」

「壊れないと思う」

「思うだけですね」


 シアは不満そうにしながらも、力を止めた。


◆ 冷え始めた土地


 日が傾く頃、町の兵士が空き地へ来た。

 樹海からの報告ではなかった。


「別の地域で、急に冷え込みが強くなっています」


 兵士は地図を広げた。

 もともと寒さの厳しい山沿いだった。

 だが、今はその周辺まで地面が凍り、川の流れも止まり始めているという。


「氷の精霊王」


 シアが言った。


「可能性は高いです」


 ネアが地図を見る。


「樹の精霊王と同じように、自分の役割を広げているのでしょう」

「今度は分霊核がある」


 赤い玉が、シアの肩の周囲を一周する。


「一つだけです」

「昨日はゼロだった」

「その差がどこまで大きいかは、実戦で確かめることになります」


 セトは凍結が広がる地域と、現在地を見比べた。


「明日の朝に出る。今夜は休みながら、分霊核の扱いを確認する」

「分かった」


 シアは分霊核へ手を伸ばした。

 触れる前に、赤い玉が自分から手元へ寄る。

 自分から動いたのではない。

 シアが無意識に動かしたものだった。


 最初の分霊核を得ても、シア自身の力が急に強くなったわけではない。

 蓄えた火を残し、離れた場所へ運び、シアの意思で使うための器が増えた。

 昨日まで一つしかなかった作用点は、二つになっていた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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