(五)最初の一つ
◆ 二倍ではない
「力は増えた?」
シアが尋ねる。
「持てる量は増えました」
ネアが答えた。
「シア自身の力とは別に、分霊核の中へ蓄えた分も使えます」
「玉から出した火は弱かった?」
「多少は落ちていますが、シア自身から放ったものとほぼ同等です」
シア自身と分霊核。どちらを起点にしても、同程度の攻撃を放てる。
ただし、現在のシアには、二つの攻撃を同時に成立させることはできなかった。
「なら、こっちから撃った後、すぐ向こうから撃てる」
「ええ。攻撃する位置を切り替えられます」
「大きい攻撃も?」
「それぞれを起点にはできるでしょう。ただし、片方を放ってから、もう片方へ切り替えることになります」
「順番なら撃てる」
「分霊核へ十分な力が残っていれば」
分霊核を得たことで、シア自身の一撃が二倍になったわけではない。
ほぼ同じ力を出せる別の起点と、力を残しておく器が一つ増えた。
「樹海で足りなかったものだ」
セトが言う。
「ええ。別の場所へ攻撃を切り替えられることと、本体が攻撃している間に、分霊核を防御へ使えることが重要です」
◆ 宝石ではなくなったもの
試験を見ていた宝石商は、シアの周囲を回る赤い玉を見上げた。
「店にあった時とは、まるで違いますね」
「中に力が入ったから」
シアが答える。
「もう宝石ではないのですか」
「人間から見れば、今でも赤い玉でしょう」
ネアが言った。
「ただ、火の精霊王にとっては、本来の器として働き始めました」
「売った後で惜しくなりましたか」
商人が尋ねる。
宝石商は少し考えた。
「店に置いたままでは、一度も浮かなかったでしょう。正体が分かった方がよい」
「値段は上げない?」
シアが聞く。
「もう売りました」
「いい商人」
「そう言っていただけるなら、次に似た物を聞いた時も連絡します」
◆ 最初の一つ
商人と宝石商が町へ戻った後も、三人は空き地に残った。
シアは分霊核を動かし続ける。
前後へ移す。地面近くへ下げる。頭上へ上げる。
自分から炎を放った後、分霊核へ攻撃の起点を切り替える。
分霊核を防御へ使いながら、自分の炎を維持する。
動きは少しずつ滑らかになった。
「名前は付けないのか」
セトが尋ねる。
「誰かじゃないから付けない」
シアは迷わず答えた。
「分霊核は分霊核」
「区別が必要になるほど増えたら?」
ネアが尋ねる。
「一つ目、二つ目」
「そのままですね」
「分かりやすい」
最初の一つは、シアの肩の後ろをゆっくり回った。
◆ 蓄える時間
その日の残りは、分霊核へ力を蓄えながら過ごした。
シアが一度に入れようとするたび、ネアが止める。
少量を入れ、動かす。出した分を確かめる。再び蓄える。
急に満たすのではなく、器がどれほど受け入れられるかを調べながら進めた。
「まだ入る」
「今日はここまでです」
「もっと入る」
「入ることと、今入れることは別です」
「明日使うかもしれない」
「だからこそ、安全を確かめる前に最大まで入れる理由はありません」
「壊れないと思う」
「思うだけですね」
シアは不満そうにしながらも、力を止めた。
◆ 冷え始めた土地
日が傾く頃、町の兵士が空き地へ来た。
樹海からの報告ではなかった。
「別の地域で、急に冷え込みが強くなっています」
兵士は地図を広げた。
もともと寒さの厳しい山沿いだった。
だが、今はその周辺まで地面が凍り、川の流れも止まり始めているという。
「氷の精霊王」
シアが言った。
「可能性は高いです」
ネアが地図を見る。
「樹の精霊王と同じように、自分の役割を広げているのでしょう」
「今度は分霊核がある」
赤い玉が、シアの肩の周囲を一周する。
「一つだけです」
「昨日はゼロだった」
「その差がどこまで大きいかは、実戦で確かめることになります」
セトは凍結が広がる地域と、現在地を見比べた。
「明日の朝に出る。今夜は休みながら、分霊核の扱いを確認する」
「分かった」
シアは分霊核へ手を伸ばした。
触れる前に、赤い玉が自分から手元へ寄る。
自分から動いたのではない。
シアが無意識に動かしたものだった。
最初の分霊核を得ても、シア自身の力が急に強くなったわけではない。
蓄えた火を残し、離れた場所へ運び、シアの意思で使うための器が増えた。
昨日まで一つしかなかった作用点は、二つになっていた。
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