(四)二つの起点
◆ 中に残る火
「入れた力は残ってる」
シアが赤い玉を見た。
「戻せますか」
ネアが尋ねる。
シアは手を伸ばさず、玉へ意識を向けた。
内側の赤い光が細くなり、シアの掌へ流れる。
小さな炎が灯った。
「出せる」
「どれくらい残っていますか」
「さっき入れた分より少し減った。でも、ほとんどある」
「動かす時にも、わずかに使っているのでしょう」
「入れておいて、後で使える」
「ええ」
「予備の火」
シアは分霊核へ、先ほどより少し多く力を流した。
赤い光が強くなる。
「入れすぎないでください」
「まだ少ない」
「基準がシアなので信用できません」
◆ 離れた場所の炎
空き地の端へ、倒れた木の一部があった。
シアは分霊核を木の近くへ動かす。
「そこから火を出せる?」
セトが尋ねる。
「やってみる」
シアは自分の掌を動かさず、分霊核だけへ意識を向けた。
赤い玉の前に、小さな炎が生まれる。
炎は木へ触れ、表面を黒くした。
「出た」
「シア自身から撃ったのではないのですね」
「玉から出した」
ネアは分霊核とシアの間へ線を伸ばした。
「中へ蓄えた力だけでなく、シアから力を送り、離れた位置で火へ変えることもできています」
「もう一つの手」
セトが言った。
「ええ。これで、作用点として使えることも確認できました」
◆ 二つの起点
「両方から出す」
シアは右手を前へ向けた。
分霊核を、木の反対側へ回す。
掌に炎を作りながら、分霊核の前にも炎を作ろうとする。
赤い玉の内側で光が強くなった。
だが、炎にはならない。
「出ない」
「手元の炎を止めてください」
ネアが言う。
シアが掌の炎を消す。
直後、分霊核の前に炎が灯った。
「今度は出た」
「攻撃の起点を、シア自身から分霊核へ移したようですね」
「両方は?」
「もう一度試してみてください」
シアは分霊核の炎を消し、自分の掌へ炎を作った。
その状態から、再び赤い玉にも炎を作ろうとする。
分霊核の内側へ赤い光が集まる。
それ以上は進まなかった。
分霊核側へ意識を移すと、手元の炎が消え、その直後に離れた位置で炎が灯る。
「片方ずつ」
「今のシアでは、二つの攻撃を同時には成立させられないようです」
「でも、すぐ切り替えられる」
「ええ。攻撃を放つ位置を変えられます」
シアは自分の手から木へ炎を放った。
炎を消す。
その直後、木の反対側へ置いた分霊核から、同じ場所へ火を放つ。
同時ではない。
それでも、一方向を防いだ相手へ、ほとんど間を置かず別の方向から攻撃できる。
「挟める」
「攻撃する方向を切り替えれば、そう見せることはできます」
◆ 攻撃しながら守る
セトは地面から細い枝を拾った。
「シアは、あの木へ火を出し続けろ」
「分かった」
「俺がこれを投げる。分霊核で止めろ」
「攻撃は二つ出なかった」
「分霊核には攻撃させない。守るだけだ」
シアは少し考えた。
「やってみる」
シアは自分の掌から、倒木へ細い炎を伸ばした。
セトが枝を投げる。
シアは炎を止めず、分霊核を枝の進路へ動かした。
赤い玉の前へ、熱を帯びた壁が生まれる。
枝は壁へ触れ、勢いを失って地面へ落ちた。
倒木へ向けた炎は途切れていない。
「できた」
「攻撃を二つ同時にはできなくても、攻撃と防御は別の場所で行えるようですね」
ネアが言う。
「樹海であれば、シア自身が樹の精霊王へ攻撃しながら、分霊核で外側から来る根を防げます」
「もう一つの手になった」
シアは分霊核を手元へ戻した。
◆ 勝手には動かない
「もう一回」
シアが言う。
今度は、分霊核へ意識を向けずに炎を出した。
セトが別の枝を投げる。
赤い玉は、シアの肩の周囲を回ったままだった。
枝はシアの足元へ落ちる。
「勝手には守らない」
「人格も判断力もありませんから」
ネアが答えた。
「シアが危険を認識し、分霊核へ何をさせるか決める必要があります」
「手が増えても、頭は一つ」
セトが言う。
「昨日の説明どおりです」
「でも、一つなら使える」
「今の試験では、です。実戦では相手も動きます」
「使いながら覚える」
「先に練習します」
※第35話「最初の分霊核」は全五回です。
続きます。
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