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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第35話 最初の分霊核

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(二)返らない一点

◆ 傷の付かない祭具


「しかし、本当に傷は付かないそうです」


 管理人は、祭具を支える金具の裏を見せた。

 金具には交換された跡がある。

 赤い玉の表面には、刃を当てたような跡すらなかった。


「分霊核でなくても、加工できない物はあるということですね」


 ネアが言った。


「何でできている」


 シアが尋ねる。


「分かっていません。昔からこの形で置かれていたと伝わっています」

「力もない?」

「祭具として大切にしていますが、不思議な力が起きたという話はありません」


 条件は近かった。

 それでも、火の分霊核ではない。


「一つ減った」


 シアが言う。


「残り二つです」

「三つまで減った時より進んだ」

「当然です」


◆ 魔道具の核


 二つ目の候補は、加工場の奥にあった。

 職人が作業台の上へ、金属製の筒を置く。

 筒の側面は割れており、内部に赤い球が見えていた。


「古い暖房用の魔道具らしい」


 職人が説明する。


「壊れているのに、この赤い核だけ外れない。周りの金属を削っても、核へ刃を当てると滑る」

「丸い」


 シアが覗き込む。


「赤い」

「削れません」


 商人が指を折る。


「条件は三つとも合います」


 シアは先ほどと同じように、薄い精霊力を広げた。

 赤い球へ触れた力は、吸収されずに返ってくる。

 ただし、祭具の玉とは戻り方が違った。


「中で動いた」

「何がですか」

「入らない。でも、触ったら別の力が回った」


 ネアが筒へ銀青色の線を近づける。


「魔道具の回路が残っています」


◆ 力を持つもの


 職人が筒の端へ小さな板を差し込んだ。

 赤い球の周囲に、弱い光が走る。

 筒から温かい空気が漏れた。


「壊れていても、少しは動く」

「分霊核ではありません」


 ネアが言った。


「分霊核は、人間が触れただけでは機能しません。この球は魔道具の一部として、すでに人間の仕組みで働いています」

「力も出してる」


 シアは筒へ手をかざした。


「最初から温かい」

「では、残り一つですね」


 商人が言う。


「最後が違ったら、また探す」

「三つは確定ではなく、今の情報で絞れた候補ですからね」


 ネアは先に釘を刺した。


「最後なら本物、とは限りません」

「でも、最後」

「順番上はそうです」


◆ 売れなかった宝石


 宝石商の店は、市場通りの反対側にあった。

 表には磨かれた石や、金具へはめられた装飾品が並んでいる。

 探している赤い玉は、売り場にはなかった。


「加工できない赤い石の話なら、たしかにあります」


 宝石商は、店の奥から木箱を持ってきた。


「ただ、宝石としては扱いにくい物です」


 箱の中には、布へ包まれた小さな赤い玉が入っていた。

 大きさは、指先でつまめるほどだった。

 表面は滑らかで、光を受けると内側に赤い色が沈んで見える。


「磨いたのか」


 セトが尋ねる。


「いいえ。手に入れた時からこの形です」

「自然に丸い?」

「そうとしか考えられません」


◆ 名前の付かない石


 宝石商は、別の箱から赤い石を二つ出した。

 一つはルビー。もう一つはガーネットだった。

 探している玉を、その間へ並べる。


「色は近いですが、同じ物ではありません」


 光の通り方も、表面の質も違う。

 硬さを調べる道具でも傷を付けられず、熱しても冷やしても変化しなかった。


「穴を開けて飾りへ使うこともできない。削って形をそろえることもできない。珍しいので保管していますが、買い手はほとんどいません」

「どこで手に入れた」

「何年か前、旅の行商人から買いました。その行商人も、別の町で古い箱の中に混ざっていた物を買ったそうです」


 それより前の所在は分からない。

 特別な由来も、名前も伝わっていなかった。

 ただの、種類の分からない赤い宝石として移動してきた。


◆ 返らない一点


「触る前に確かめる」


 シアは赤い玉から距離を取った。

 店内に熱を出さないよう、赤橙色の精霊力を薄く広げる。

 棚、壁、床、並べられた宝石。

 触れた力が、少しずつ形を変えて戻ってくる。

 木箱の中央だけ、戻らなかった。

 シアが目を開く。


「これ」

「吸収されましたか」

「入った。少しだけ」


 ネアも玉を見る。

 月の力を近づけても、何も起こらない。


「わたしには普通の石と同じです」

「火だけ入る」

「同一系統だけが扱えるという知識とも一致します」


 最初の二つとは違う。

 赤い玉は、シアの力だけを受け入れていた。



※第35話「最初の分霊核」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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