(二)返らない一点
◆ 傷の付かない祭具
「しかし、本当に傷は付かないそうです」
管理人は、祭具を支える金具の裏を見せた。
金具には交換された跡がある。
赤い玉の表面には、刃を当てたような跡すらなかった。
「分霊核でなくても、加工できない物はあるということですね」
ネアが言った。
「何でできている」
シアが尋ねる。
「分かっていません。昔からこの形で置かれていたと伝わっています」
「力もない?」
「祭具として大切にしていますが、不思議な力が起きたという話はありません」
条件は近かった。
それでも、火の分霊核ではない。
「一つ減った」
シアが言う。
「残り二つです」
「三つまで減った時より進んだ」
「当然です」
◆ 魔道具の核
二つ目の候補は、加工場の奥にあった。
職人が作業台の上へ、金属製の筒を置く。
筒の側面は割れており、内部に赤い球が見えていた。
「古い暖房用の魔道具らしい」
職人が説明する。
「壊れているのに、この赤い核だけ外れない。周りの金属を削っても、核へ刃を当てると滑る」
「丸い」
シアが覗き込む。
「赤い」
「削れません」
商人が指を折る。
「条件は三つとも合います」
シアは先ほどと同じように、薄い精霊力を広げた。
赤い球へ触れた力は、吸収されずに返ってくる。
ただし、祭具の玉とは戻り方が違った。
「中で動いた」
「何がですか」
「入らない。でも、触ったら別の力が回った」
ネアが筒へ銀青色の線を近づける。
「魔道具の回路が残っています」
◆ 力を持つもの
職人が筒の端へ小さな板を差し込んだ。
赤い球の周囲に、弱い光が走る。
筒から温かい空気が漏れた。
「壊れていても、少しは動く」
「分霊核ではありません」
ネアが言った。
「分霊核は、人間が触れただけでは機能しません。この球は魔道具の一部として、すでに人間の仕組みで働いています」
「力も出してる」
シアは筒へ手をかざした。
「最初から温かい」
「では、残り一つですね」
商人が言う。
「最後が違ったら、また探す」
「三つは確定ではなく、今の情報で絞れた候補ですからね」
ネアは先に釘を刺した。
「最後なら本物、とは限りません」
「でも、最後」
「順番上はそうです」
◆ 売れなかった宝石
宝石商の店は、市場通りの反対側にあった。
表には磨かれた石や、金具へはめられた装飾品が並んでいる。
探している赤い玉は、売り場にはなかった。
「加工できない赤い石の話なら、たしかにあります」
宝石商は、店の奥から木箱を持ってきた。
「ただ、宝石としては扱いにくい物です」
箱の中には、布へ包まれた小さな赤い玉が入っていた。
大きさは、指先でつまめるほどだった。
表面は滑らかで、光を受けると内側に赤い色が沈んで見える。
「磨いたのか」
セトが尋ねる。
「いいえ。手に入れた時からこの形です」
「自然に丸い?」
「そうとしか考えられません」
◆ 名前の付かない石
宝石商は、別の箱から赤い石を二つ出した。
一つはルビー。もう一つはガーネットだった。
探している玉を、その間へ並べる。
「色は近いですが、同じ物ではありません」
光の通り方も、表面の質も違う。
硬さを調べる道具でも傷を付けられず、熱しても冷やしても変化しなかった。
「穴を開けて飾りへ使うこともできない。削って形をそろえることもできない。珍しいので保管していますが、買い手はほとんどいません」
「どこで手に入れた」
「何年か前、旅の行商人から買いました。その行商人も、別の町で古い箱の中に混ざっていた物を買ったそうです」
それより前の所在は分からない。
特別な由来も、名前も伝わっていなかった。
ただの、種類の分からない赤い宝石として移動してきた。
◆ 返らない一点
「触る前に確かめる」
シアは赤い玉から距離を取った。
店内に熱を出さないよう、赤橙色の精霊力を薄く広げる。
棚、壁、床、並べられた宝石。
触れた力が、少しずつ形を変えて戻ってくる。
木箱の中央だけ、戻らなかった。
シアが目を開く。
「これ」
「吸収されましたか」
「入った。少しだけ」
ネアも玉を見る。
月の力を近づけても、何も起こらない。
「わたしには普通の石と同じです」
「火だけ入る」
「同一系統だけが扱えるという知識とも一致します」
最初の二つとは違う。
赤い玉は、シアの力だけを受け入れていた。
※第35話「最初の分霊核」は全五回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




