(一)祭具の赤い玉
◆ 半日先の町
翌朝、三人は樹海の近くに置かれた詰め所を出た。
森の外縁に変化はない。
新しい木が生えたという報告も、樹の精霊王が姿を現したという報告も届いていなかった。
「今日のうちは動かないと思います」
ネアが森の方角を見る。
「絶光で空白になった場所へ、周囲から原光が戻るには時間がかかります」
「戻ったら、また増やす」
シアが言った。
「可能性は高いです」
「その前に分霊核を見つける」
「候補が本物なら、ですが」
町までは、樹海を避けて半日ほどだった。
街道は遠回りになっていたが、通れなくなった区間には兵士が立ち、旅人へ迂回路を伝えている。
三人は昼前に町へ着いた。
◆ 情報を持つ商人
伝令から聞いた商人の店は、市場通りの端にあった。
店先には布、香辛料、金具、装飾品が並んでいる。
一つの品を専門に扱う店ではない。
各地から買い集めた物を、別の場所へ運んで売る商人だった。
「加工できない宝玉を探している方々ですね」
商人は、セトたちが名乗る前に言った。
「昨日、兵士から話が来たばかりですが、思ったより早かった」
「赤いものを探している」
シアが店の奥へ入る。
「赤くて、小さくて、削れない玉だ」
「その条件なら、三つほど聞いたことがありますね」
「三つもあるのか」
セトが聞き返した。
「三つまで減った、と考えましょう」
ネアが言う。
大陸中を歩いて探すよりは、はるかに少ない。
だが、三つはそれぞれ別の場所にあった。
◆ 三つの候補
商人は帳面を開いた。
「一つ目は、町の西にある小さな祠の祭具です。赤い玉が金具へはめ込まれています」
「削れない?」
「何代か前に金具を直そうとした職人が、玉だけは傷一つ付けられなかったそうです」
二つ目は、町の南にある加工場へ持ち込まれた古い魔道具の部品だった。
赤く丸い核が内部へ入っており、外そうとしても壊せなかったという。
「三つ目は?」
「宝石商が持っています」
赤い小さな玉。磨かれた形に見えるが、削った跡はない。ルビーでもガーネットでもなく、どの種類の宝石か分からない。
「売り物なのか」
「一応は。ただ、加工できないので値を付けにくく、長く保管したままだそうです」
「どれが本物か分かる?」
シアが尋ねる。
「説明だけなら、どれも近いです」
ネアが答えた。
「実物の近くで、シアが確かめるしかありません」
◆ 人の手で絞る
「最初にどこへ行く」
セトは帳面の三か所を見る。
「近い順なら祠です」
商人が答えた。
「魔道具の加工場は、その次。宝石商は町の反対側です」
「なら、その順だ」
「私も同行しましょう」
商人が帳面を閉じる。
「祠の管理人も加工場の職人も、突然見せてほしいと言われてすぐに応じるとは限りません。私が話を通した方が早い」
「助かる」
セトが言った。
分霊核を見分けられるのはシアだけだった。
だが、どこにあるかを絞ったのは、人間が残した話と商人の記憶だった。
精霊王の感知だけでも、人間の情報だけでも見つけられない。
前日に決めた探索方法が、初めて形になっていた。
◆ 祭具の赤い玉
祠は町の西門に近い場所にあった。
石造りの小さな建物で、旅の安全と火除けを願う者が立ち寄る。
祭壇の中央に、赤い玉が置かれていた。
金属の輪へ挟まれ、炎をかたどった飾りに囲まれている。
「火の精霊王に関係する祭具なのですか」
管理人がシアを見る。
「分からない。今から見る」
シアは祭壇から数歩離れた。
赤橙色の精霊力を、熱へ変えずに薄く広げる。
力は床と壁へ触れ、祭壇をなぞり、シアのもとへ返った。
「違う」
「もう分かったのか」
商人が尋ねる。
「全部返ってきた」
シアは赤い玉へ近づいた。
触れてみても、何も吸い込まれない。
精霊力を受け入れる器ではなかった。
※第35話「最初の分霊核」は全五回です。
続きます。
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