(五)最初の返事
◆ 痛み分け
森の外では、兵士たちが第三標識の近くまで下がっていた。
セトたちが出ると、数人が駆け寄ってくる。
「森が止まりました」
兵の一人が言った。
「新しい木が生えなくなっています」
「樹の精霊王は森の奥にいる」
セトが答える。
「倒したのではないのですか」
「倒していない。広がる力を一度止めただけだ」
「また始まりますか」
「可能性は高いです」
ネアが森を振り返る。
「ただし、今すぐではありません。住民は戻さず、現在の外縁を記録してください。木が一本でも増えたら知らせてください」
街道は戻っていない。
畑の一部も森に飲まれたままだった。
樹の精霊王を現在の世界へ適応させることもできなかった。
それでも、その日の拡大だけは止まった。
◆ 分霊核があれば
詰め所へ戻ると、シアは椅子へ座り込んだ。
ネアも壁へ背を預ける。
周囲の原光は戻っていたが、二人が使った力まで戻るわけではない。
「火なら、もっと簡単に勝てると思った」
シアが言う。
「木そのものには有利でした」
「全部の木を一度に燃やせなかった」
「燃やしてはいけない木もありましたから」
ネアは水を一口飲んだ。
「こういう場合も分霊核があるとだいぶ変わってくるのですが」
「絶光の後でも動ける」
「ええ。周囲の原光を空白にしても、分霊核の内側に蓄えた力は残ります」
樹の精霊王の成長を止めた後、シアだけが分霊核の力で動ける。
あるいは、分霊核を外側の防御へ残し、本体で樹の精霊王へ近づける。
「今は、止めた後に三人とも動けなくなった」
セトが言う。
「はい。分霊核があれば、その先の手が残ります」
◆ 足りなかったもの
「力が足りなかった?」
シアが尋ねる。
「最大出力だけなら、足りています」
ネアが答えた。
「森を焼く力も、成長を止める力もありました」
「でも勝てなかった」
「同時にできなかったからです」
樹の精霊王は、自分の身体を守りながら、森の外側も広げ続けた。
三人は、本体へ近づくことと、周辺の被害を止めることを交互に行うしかなかった。
「分霊核は、こういう時のもう一つの手か」
セトが言う。
「ええ。先ほど話したとおり、単純に一撃を強くするものではありません」
「さっき聞いた」
シアが言った。
「実際に必要な場面ができたので、確認です」
「必要なのは分かった」
「なら、次は使える状態で来ます」
◆ 一時的な境界
夕方まで、森の外縁は動かなかった。
兵士たちは新しくできた森の周囲へ目印を置いた。
第三標識は木々の中へ消えている。
その手前へ仮の標識を立て、見張りを残す。
「樹の精霊王が出てきても、攻撃を始めるな」
セトが見張りの兵へ言った。
「木が増え始めたら退避して知らせろ。止めようとして近づけば、押し返される」
「討伐隊を呼ばなくてよいのですか」
「倒すための相手ではない」
「ですが、このままではまた森が」
「だから、次は止めた後にも動けるようにする」
セトは森を見る。
樹の精霊王の考えは変わっていない。
こちらの方針も変わらない。
今ある生命を守りながら、役割の果たし方を覚えてもらう。
そのためには、もう一つの手が必要だった。
◆ 最初の返事
日が沈む前に、一人の伝令が詰め所へ着いた。
森の異変を伝える者とは、別の方角から来ている。
「加工できない宝玉について、返事がありました」
セトたちは伝令を見る。
「近くの町にいる商人が、条件に近い品を聞いたことがあるそうです」
「赤?」
シアがすぐに尋ねる。
「赤い物も含まれているとのことです。ただ、詳しい話は商人本人でなければ分からないと」
「場所は?」
伝令が地図を開き、街道の先を指した。
樹海を避けて進めば、半日ほどの町だった。
「明日行く」
シアが立ち上がろうとする。
「今日は休みます」
ネアが肩を押さえた。
「動ける」
「小さな火しか出せない状態を、動けるとは言いません」
森を止めることはできた。
だが、その後に動く力が残らなかった。
次に同じ状況へ立つ時は、止めるだけでは終わらせない。
三人は、最初の分霊核につながるかもしれない情報を持つ商人の町へ向かうことにした。
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