(四)絶光
◆ 空白の策
『この周囲の原光を、完全に空白にします』
「森全体を?」
『少なくとも、樹の精霊王から外側へ流れる中心部分を止めます。流れが途切れれば、離れた場所の成長も弱まるはずです』
「その後は?」
『わたしたちも力を使えません』
絶光の最大出力は、敵だけを選ばない。
周囲の原光をすべて取り除けば、樹の精霊王は森を増やせなくなる。
同時に、シアも炎を作れず、ネアも次の術を使えない。
セトの白刃と黒刃も作れなくなる。
『止めた後に殴れない』
『ええ』
『でも、森は止まる』
『止まります』
『ならやる』
シアの答えは早かった。
セトも二本の剣を構え直す。
「ネア、頼む」
◆ 絶光
セトは絶光を地面へ向けた。
ネアの力が、刀身から森全体へ広がる。
「絶光」
銀青色の光が、音もなく地面を走った。
土の中を流れていた原光が引き抜かれる。
木々の幹を満たしていた力が消える。
開きかけた葉が止まった。
持ち上がっていた根が、途中で動きを失う。
シアの炎も小さくなる。
極炎の刀身を覆っていた赤い光が消え、ただ剣の形だけが残った。
さらに原光が薄くなる。
セトの足元まで伸びていた芽が、地面を割った姿のまま止まった。
森から、成長する音が消えた。
◆ 止まった森
絶光から光が消えた。
セトの手にあった二本の精霊剣が、人の姿へ戻る。
シアは地面へ片膝をついた。
ネアも立っていたが、銀青色の線を一本も出していない。
「止まった」
シアが周囲を見る。
「今だけです」
ネアは短く息を整えた。
セトは白刃を作ろうとした。
手の中へ原光が集まらない。
黒刃も同じだった。
周囲から排除する原光そのものが、ほとんど残っていない。
樹の精霊王の周囲でも、根と枝が動きを止めていた。
互いに、次の精霊術を使えない。
森の中に、葉が触れ合う音だけが残った。
◆ どちらも動けない
セトは樹の精霊王を見る。
「これ以上は広がらない」
「原光は戻る」
樹の精霊王が答えた。
「戻れば、森はまた広がる」
「その時は、また止める」
「何度でも?」
「必要なら」
樹の精霊王は、燃えた木々と、焼かれずに残った古い森を見た。
「森を消すために来たのではないのか」
「前からある森は焼いていない」
セトが答える。
「増やすなと言っているんじゃない。今あるものを見ずに、全部を森にするなと言っている」
「木のない場所を残す」
「畑も街道も、何もない場所ではない」
◆ 役割をやめない王
樹の精霊王は、すぐには答えなかった。
足元の土へ手を向ける。
何も起きない。
原光が空白になった場所では、新しい芽を作れなかった。
「生命を増やすことが、役割だ」
「役割をやめろとは言っていない」
ネアが言う。
「増やした結果、何が失われるかも見てください」
「失われても、新しい生命が生まれる」
「失われる側は、取り替えられません」
「分からない」
樹の精霊王は、初めてそう言った。
拒絶ではなかった。
だが、受け入れたわけでもない。
「役割はやめない」
「今すぐ再開する力はありません」
「戻るまで待つ」
樹の精霊王は、森の奥へ向き直った。
◆ 追えない三人
「逃がすの?」
シアが立ち上がる。
「追ってどうする」
セトが尋ねた。
「もう一回話す」
「炎は出せるか」
シアは掌を開いた。
何も起きない。
「出ない」
「わたしも、今は流れを追えません」
ネアが言った。
樹の精霊王は、三人を攻撃しなかった。
森の外へ押し出すこともできない。
ただ歩いて、動きを止めた木々の間へ消えていく。
「消滅させることが目的ではありません」
ネアは樹の精霊王が去った方角を見る。
「森の拡大は止まりました。こちらも、それ以上を強制する力が残っていません」
「向こうも、こっちを追い出せない」
シアが言う。
「痛み分けか」
「ほぼ、そうですね」
◆ 森の外へ
三人は、ネアが覚えていた方角へ歩いた。
木々はもう道を塞がない。
新しく伸びることもない。
しかし、すでに作られた幹と根は、その場に残っている。
セトたちは倒木を乗り越え、根の隙間を通った。
精霊術が使えないため、帰りは来た時より遅かった。
森の外に近づくと、わずかに原光が戻ってくる。
シアの指先へ、小さな火が灯った。
「戻った」
「外側から少しずつ流れ込んでいます」
ネアも細い線を出した。
「ただ、中心部の空白はすぐには埋まりません。樹の精霊王も、今日中に同じ規模で広げることは難しいでしょう」
「今日だけか」
「永遠に止めたわけではありません」
※第34話「樹海を広げる王」は全五回です。
続きます。
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