(二)背中を預ける
◆ 二人を離す光
光の精霊術士が杖を高く上げた。
眩しい光が舞台の中央へ広がる。
白い壁のような輝きが、セトとシアの間を分断した。
互いの姿が見えない。
「これで、火は届かない」
光の向こうから声がした。
直後、剣の男が踏み込んでくる。
片刃の剣が連続して振られた。
肩。
脇腹。
脚。
セトは白刃で受け、避け、後ろへ下がる。
相手は白刃の間合いを知っている。
無理に離れず、刀身が伸び切る前へ入り続ける。
セトが短剣を作ろうとすれば、その手元を狙う。
白刃を長く保てば、懐へ入ってくる。
「一人では、その剣を生かせないようだな」
「昨日までも前で戦ってたのは俺だ」
「後ろの火に助けられていただけだ」
男の剣が白刃を弾く。
切っ先がセトの肩へ触れた。
浅い痛みが走る。
◆ 見えない相手
「シア!」
返事はない。
光の壁が音まで遮っているわけではない。
聞こえてはいるはずだった。
セトはもう一度呼ぼうとして、やめた。
指示を出しても、シアからこちらは見えない。
何をするかは、シアが決めるしかない。
片刃の剣が正面から迫る。
セトは白刃で受けた。
押し合った瞬間、足元へ赤い光が見えた。
小さな火だった。
光の壁の下を、地面すれすれに抜けてきた。
白刃からは遠い。
セトは男の剣を受けたまま、右足を引いた。
火がその場所を通過する。
続いて、二つ目の火。
一つ目より少し右。
三つ目は、さらに右。
火が点々と並び、光の壁に沿って進んでいる。
シアはこちらを見ていない。
それでも、セトがどこにいるかを探していた。
◆ 火の列
セトは片刃の剣を押し返した。
一歩、右へ動く。
小さな火が足元を通る。
さらに右。
次の火が来る。
シアは火を連続して流し、セトの位置を確かめている。
光の精霊術士が気づいた。
壁の向こうで杖が動く。
地面を走る光が、小さな火を消し始めた。
一つ。
二つ。
三つ。
それでも、火は止まらない。
「無駄だ!」
光の精霊術士が叫ぶ。
「全部消す!」
光が足元へ集中する。
その瞬間、光の壁の上を大きな火が越えた。
セトの頭上へ落ちてくる。
光の精霊術士は地面の火を狙っている。
剣の男はセトを押さえている。
誰も、上から来る火を止められない。
だが、その火は白刃へ向かっていなかった。
セトの背後へ落ちる軌道だった。
◆ 背中を預ける
セトは後ろを見なかった。
片刃の剣を受けたまま、白刃を一度消す。
「剣を消した?」
男が踏み込む。
セトは攻撃を避けず、相手の懐へ入った。
肩が触れそうな距離。
白刃を再び作る。
ただし、前ではない。
右手を背後へ伸ばし、見えない場所へ刀身を作った。
落ちてきた火が白刃へ触れる。
白い炎が背後で燃え上がった。
「なに――」
セトは体を回転させる。
背後で生まれた白炎が、円を描いて前へ回った。
片刃の剣と白炎がぶつかる。
セトは炎を一気に強くした。
白い火が刃の表面を包む。
男は剣を引いた。
焼かれる寸前で距離を取る。
光の壁の向こうから、シアの声がした。
「当たったな」
「ああ」
「見えていなかっただろ」
「お前なら、あそこへ落とすと思った」
「わたしも、セトなら拾うと思った」
※第7話「偽物を持ち逃げした男」は全五回です。
続きます。
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