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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第7話 偽物を持ち逃げした男

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20/31

(一)白炎を止める光

◆ 決勝の朝


 決勝当日。


 セトとシアが闘技場へ入ると、観客席はすでにほとんど埋まっていた。


 昨日より明らかに人が多い。


 町の外から来た者だけでなく、店を閉めて見物に来た町民もいるらしい。


「人が増えたな」


 シアが観客席を見上げた。


「決勝だからな」


「全員、魔剣を見に来たのか」


「俺たちほど魔剣に興味がある奴ばかりじゃない」


「なら、何を見に来た」


「俺たちが戦うところだろ」


 シアは少し考えた。


「昨日も戦った」


「決勝は一度しかない」


「同じ相手とは戦っていない」


「そういう意味じゃない」


 説明を諦め、セトは運営席へ目を向けた。


 優勝賞品を収めた木箱は、昨日と同じ場所に置かれている。


 左右には武装した兵士。


 その周りには、大会の係員が何人もいた。


 シアも木箱を見ていた。


「近くなら分かるか」


「たぶん」


「本物かどうかだけでもいい」


「ああ」


 先代イフリートから奪われた火が入っているかは、さらに近づかなければ分からない。


 まずは魔剣と呼べるものなのかを確かめる。


 そのために、あと一勝。


◆ 決勝の相手


 反対側の控え場所には、昨日の準決勝を勝ち抜いた二人がいた。


 片刃の剣を持つ男。


 その相方である、小柄な光の精霊術士。


 剣の男は、今日も運営席の木箱を見ていた。


 相方が話しかけても、短く答えるだけで視線を戻す。


「やはり、あの男は魔剣しか見ていない」


 シアが言った。


「勝てば手に入るんだから、気になるのは普通だろ」


「セトは見ていない」


「見ても中身までは分からないからな」


「わたしは分かるかもしれない」


「だから、お前の方が見てるだろ」


 シアは否定しなかった。


 剣の男がこちらへ顔を向ける。


 セトと視線が合った。


「白い炎は、もう見せてもらった」


 離れた場所から、男が言った。


「今日は通じない」


「対策したのか」


「あの少女の火が剣へ届かなければ、白い炎は生まれない」


 準決勝を見て、仕組みをある程度読んだらしい。


 間違ってはいない。


 白炎を成立させるには、シアの火が白刃へ触れる必要がある。


「全部止めるつもりか」


「光は火より速い」


 男の隣で、小柄な精霊術士が杖を上げた。


 杖の先に淡い光が集まり、すぐに消える。


「火が届く前に落とす」


 シアがセトを見た。


「速いらしい」


「聞こえてる」


「わたしの火より?」


「確かめるなよ」


◆ 作戦


 舞台へ上がる前に、セトはシアへ言った。


「最初は昨日までと同じだ。お前は後ろから援護する」


「ああ」


「相手は、お前の火を白刃へ届かせないようにするはずだ」


「なら、強くする」


「威力の問題じゃない」


「光を燃やす」


「光は燃えない」


「やってみなければ分からない」


「やるな」


 シアは不満そうだった。


「では、どうする」


「相手が火を止めるなら、止めさせればいい」


「止められたら白炎にならない」


「白炎にする火だけ通ればいい」


 シアは少し考えた。


「どれが白炎にする火だ」


「決めない」


「決めないのか」


「あらかじめ決めたら、相手にも読まれる」


「では、セトにも分からない」


「ああ」


「わたしが勝手に決める?」


「お前が通せると思った火を通せ。俺が拾う」


 シアがセトを見る。


「外れたら?」


「次を出せ」


「セトが拾えなければ?」


「俺が合わせる」


 しばらくして、シアがうなずいた。


「分かった」


「珍しく早いな」


「全部止められるより面白い」


「遊びじゃないぞ」


◆ 決勝開始


 決勝へ進む二組の名が呼ばれた。


 歓声の中、セトとシアは舞台へ上がる。


 向かい側には、剣の男と光の精霊術士。


 男は片刃の剣を抜き、正面へ構えた。


 相方は少し後ろへ下がり、細い杖をセトたちへ向ける。


「勝てば、あの魔剣は俺のものだ」


 剣の男が言った。


「二人で優勝するんだろ」


 セトが返す。


「魔剣を使うのは俺だ」


 後ろにいる相方が、わずかに男を見る。


 男は気づかない。


 審判が二組の間へ立った。


「決勝戦、始め!」


 声と同時に、光が走った。


◆ 落とされる火


 光の精霊術士が放ったのは、細い光の筋だった。


 狙いはセトではない。


 シアの周囲に生まれた小さな火へ向かっている。


 光が触れる。


 火が一つ、空中で弾けた。


 続けて二つ目。


 三つ目。


 シアが放つ前に、次々と消されていく。


「速いな」


 シアが言った。


「感心してる場合か」


 剣の男がセトへ迫る。


 片刃の剣が、横から首元を狙った。


 セトは白刃で受ける。


 刃がぶつかった直後、男は片刃の剣を滑らせるように引いた。


 白刃の側面を通り、切っ先がセトの腕へ向かう。


 セトは肘を引いた。


 服の袖が浅く裂ける。


「昨日までの相手より速いな」


「魔剣を手に入れるために来た」


「俺たちも似たようなものだ」


 セトが白刃を返す。


 見えている刀身の先から斬撃が延びる。


 男は一度見ている。


 刃の長さだけを頼りにせず、大きく後ろへ下がった。


「それも知っている」


◆ 読まれた技


 白刃の間合い。


 シアの小さな火。


 白炎が生まれる条件。


 相手は、昨日までの試合をよく見ていた。


 セトが白刃を短くする。


 投げる前に、剣の男が横へ動いた。


「短剣も知っている」


「よく見てるな」


「優勝するためだ」


 男が一気に距離を詰める。


 セトは短くした白刃を手元に残し、近距離で受けた。


 片刃の剣が上から押し込まれる。


 力ではわずかに相手が上だった。


 白刃を伸ばそうとする。


 その瞬間を読んだ男が、手首の角度を変えた。


 白刃の伸びる方向を外へ逸らされる。


「今までの相手は、その剣を知らなかった」


 男が言った。


「分かっていれば、怖くはない」


 その後ろで、シアが火を五つ出した。


 光の筋が走る。


 五つすべてが、セトへ届く前に撃ち落とされた。


「全部消えた」


「見れば分かる!」


◆ 火を増やす


 シアの周囲へ、十を超える小さな火が現れた。


 光の精霊術士が杖を振る。


 細い光が枝分かれした。


 火が次々と消される。


 赤い火花と白い光が、舞台の後方で弾け続けた。


 一つだけ、光を抜ける。


 だが、白刃とは離れた場所を飛んでいる。


「外れたぞ」


 剣の男が笑った。


「外している」


 シアが答える。


 抜けた火は男の後ろへ回り、光の精霊術士へ向かった。


 相手は杖を返し、火を光で撃ち落とす。


 その間だけ、セトへ向けられる光が止まった。


 シアが次の火を放つ。


 今度はセトの左。


 続いて右。


 頭上。


 どれも白刃へは向かっていない。


 光の精霊術士は、白炎を警戒して一つずつ落とす。


「どれを通すつもりだ」


 セトが尋ねる。


「まだ決めていない」


「俺の真似をするな」


「決めない方が読まれないんだろ」


「そうだけどな」



※第7話「偽物を持ち逃げした男」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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