(四)決勝へ
◆ 二対一
残る大剣の男が、シアの前で振り返った。
「もう終わったのか」
「二人になった」
シアが答える。
「では、今度はわたしも前へ出ていいか」
「駄目だ!」
セトが走りながら叫んだ。
「二対一だぞ」
「だから援護しろ!」
「今まで援護していた」
「最後まで続けろ!」
大剣の男がセトへ向き直る。
「ずいぶん変わった組み方だな」
「俺もそう思う」
「前で戦える方を、後ろへ置いている」
「前に出すと大会にならないんだよ」
「どういう意味だ?」
「気にしなくていい」
大剣が振られる。
セトは白刃で受けた。
重い衝撃が腕へ伝わる。
男は力任せに押しているわけではない。
刃を合わせたまま角度を変え、セトの白刃を外へ流そうとする。
セトも足を動かし、押し切られない位置へ移る。
◆ 小さな火の使い方
「シア、右だ」
小さな火が、男の右側へ飛ぶ。
男は動かない。
火の威力が低いと、すでに見抜いていた。
そのまま大剣を押し込んでくる。
「効かないぞ」
「当てるとは言っていない」
火は男の横を通り過ぎた。
セトは白刃を引く。
押す相手を失った男の体が、わずかに前へ傾く。
その先に、通り過ぎた火が戻ってきた。
シアが指を動かし、火の進む方向を変えていた。
小さな炎が男の顔の前で弾ける。
熱よりも光が目を塞いだ。
「くっ」
男が顔を背ける。
セトは白刃を短く持ち替え、懐へ入った。
柄を男の胸当てへ叩き込む。
だが、男は倒れない。
大剣の柄でセトの肩を打ち返した。
セトの体が横へ流れる。
「セト」
「大丈夫だ」
男が追撃しようと踏み込む。
足元へ、次の火が置かれた。
男は踏み切る直前で止まった。
今度は避けた。
◆ 合わせる
セトは肩の痛みを確かめながら白刃を構え直した。
「弱いと分かっていても避けるんだな」
シアが言った。
「踏みつける必要がないなら避けるだろ」
「なら、逃げる場所を決められる」
「ああ」
シアが三つの火を出した。
男の左。
後ろ。
右斜め前。
一度に攻撃するのではなく、動ける方向を一つだけ残す。
大剣の男も意図に気づいた。
「思い通りには動かん!」
男は火の一つへ大剣を振る。
風圧で小さな炎を吹き消した。
その動きで、大剣が体の横へ流れる。
セトは空いた正面へ踏み込む。
男はすぐに大剣を戻した。
白刃と大剣がぶつかる。
「シア!」
セトが叫ぶ前に、火が飛んでいた。
白刃へ触れる。
白炎が生まれる。
◆ 手加減する白炎
白い炎が燃え上がる。
大剣の男が力を込めた。
「その剣は見た!」
大剣を白炎へ押し当て、正面から受け止める。
セトは炎を強くしなかった。
むしろ限界まで弱くする。
白い火は大剣を焼かない。
男は白炎を受け止められたと判断し、さらに前へ出た。
セトは白刃の長さを一気に縮めた。
支えを失った大剣が前へ落ちる。
セトは相手の横へ回った。
白刃を再び伸ばす。
弱い白炎をまとった刀身を、男の首元へ止めた。
「終わりだ」
男は動かなかった。
白い火が首の近くで揺れている。
熱はほとんどない。
だが、そのことを知っているのはセトとシアだけだった。
男が大剣を石床へ置く。
「降参だ」
◆ 準決勝突破
審判が腕を上げた。
「勝者、セト、シア組!」
歓声が闘技場を満たした。
セトは白炎を消す。
シアが近づいてきた。
「最後も弱くしたな」
「ああ」
「強くすれば、大剣を壊せた」
「壊したら弁償になるかもしれないだろ」
「そこを気にしていたのか」
「相手を傷つけないことも大事だ」
「剣の方が先だった」
「どっちも大事だ」
シアは降参した男の大剣を見る。
「強い剣だった」
「欲しがるなよ」
「白炎でどこまで耐えるか試したかった」
「試さなくていい」
「大会は手加減が多いな」
「そういう決まりだからな」
「だが、少し分かった」
「何が?」
「倒さなくても、相手を動かすことはできる」
シアは自分の指先へ、小さな火を一つ出した。
「弱い火でも、セトが斬る場所を作れる」
「ああ」
「白刃へ火を乗せれば、セトが強さを決められる」
「ああ」
「わたしが全部倒さなくても勝てる」
「やっと分かったか」
「全部倒した方が早いことは変わらない」
「そこも変わらないのか」
◆ もう一つの準決勝
セトたちが控え場所へ戻ると、反対側の準決勝が始まった。
勝った組が、明日の決勝の相手になる。
一人は片刃の剣を持つ男。
もう一人は、体格の小さな精霊術士だった。
剣の男は、試合が始まる前から運営席の後ろにある木箱を見ていた。
視線が離れない。
「魔剣が欲しいらしい」
シアが言った。
「大会に出てるんだから、珍しくないだろ」
「あの男は、試合より箱を見ている」
審判が開始を告げる。
剣の男は一気に距離を詰め、相手の前衛を押し切った。
相方の精霊術士は、必要な時だけ短い光を飛ばし、相手の視界を遮っている。
派手さはない。
だが、無駄もなかった。
試合は長く続かなかった。
剣の男が相手の武器を弾き、胸元へ刃を突きつける。
もう一人も相方の光に動きを止められ、降参した。
決勝進出が決まる。
剣の男は歓声へ応えなかった。
舞台を下りながら、再び魔剣の入った木箱を見る。
「次はあの二人か」
セトが言った。
「勝てば魔剣を調べられる」
「ああ」
「なら、次も援護する」
「頼む」
「必要なら、わたしが倒す」
「手加減してくれ」
「面倒だな」
「ここまで来て戻るなよ」
決勝は翌朝。
あと一勝すれば、木箱の中にある魔剣へ手が届く。
セトとシアは、二人一組のまま最後の試合へ進んだ。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




