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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第34話 樹海を広げる王

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(二)何度でも生える

◆ 役割の外


「森は、多くの生命を受け入れる」

「すべてではありません」


 ネアが答える。


「今の世界には、森になってよい場所と、森にしてはいけない場所があります」

「誰が決めた」

「そこで暮らしている者たちです」

「生命を増やす役割よりも優先されるのか」

「今ある生命を守ることも、同じくらい必要です」


 樹の精霊王は、しばらくネアを見た。

 その足元では、根が絶えず外側へ伸びている。


「役割を捨てろとは言っていない」


 セトが言う。


「森を増やす場所を選べ」

「木のない大地がある」

「そこに何があるかを先に見ろ」

「森にすれば、生命が増える」


 同じ答えへ戻った。

 理解できないのではない。

 樹の精霊王にとっては、役割の方が先にあり、その外側から世界を見る理由がなかった。


◆ 止めるための炎


「今のまま広げるなら止める」


 セトが白刃を構えた。

 樹の精霊王の周囲で、根が持ち上がる。


「森を妨げる者は、森の外へ出す」

「自分から止まるつもりはない?」


 シアが尋ねる。


「ない」

「なら燃やす」


 赤橙色の炎が、シアの両腕を覆った。

 根の壁が三人へ押し寄せる。

 シアは正面から炎を放った。

 熱の波ではない。

 根と枝だけを狙った炎が、壁の中央へ穴を開ける。


 セトとネアが、その隙間を抜けた。

 シアが続こうとした時、燃えた根の下から新しい根が持ち上がった。


「もう戻った」

「まだ増えています」


◆ 焼いた後


 シアは炎を広げた。

 新しく生えた木々が、まとめて赤く染まる。

 幹が炭になり、枝が崩れ、空が見えた。

 火を止めた直後、黒い地面が割れた。


 芽が並んで顔を出す。

 最初の葉が開く前に、隣から別の木が伸びた。


「焼いた分より多い」

「樹の精霊王から、地面全体へ力が流れています」


 ネアの線は、一本の根だけを追えなかった。

 森のあらゆる場所へ分かれ、土の下を通り、離れた場所で新しい木を作っている。


「火との相性自体は悪くありません。生えたものは焼けています」

「でも、焼くより生える方が速い」

「ええ」


 炎は確実に森を削っている。

 それでも、削った面積以上に森が広がっていた。


◆ 広がる場所


「外側も動いています」


 ネアが振り返った。

 森の外へ伸ばしていた銀青色の線が、大きく揺れる。


「街道だけではありません。畑の側へも根が伸びています」

「ここで燃やしているのに?」

「樹の精霊王は、ここだけを動かしているわけではありません」


 シアが中央を焼いている間にも、森の端では木が増えている。

 樹の精霊王へ近づけば、外側を止める者がいなくなる。

 外側へ戻れば、樹の精霊王へ届かない。


「先に端を焼く」


 シアが森の外へ向こうとする。


「それでは、こちらが再び塞がれます」

「両方やる」

「今の位置から両方はできません」


 シアは一度、樹の精霊王を見た。

 樹の精霊王は動いていない。

 動かなくても、森全体が広がっていた。


◆ 白炎と黒月


「人型のまま押す」


 セトは右手に白刃、左手に黒刃を作った。

 シアの炎が白刃へ重なる。

 白い刀身が赤く染まり、炎の刃が前方へ伸びた。

 ネアの月の力は黒刃へ流れ、周囲の原光を吸い寄せる。


「新しい根を黒刃で崩す。シアは切った場所を焼け」

「分かった」

「外側の流れは、わたしが見ます」


 セトが白炎を振る。

 見えている刀身より先で、木々が斜めに切れた。

 切断面へ炎が入り、再び芽が出る前に焼く。

 左から伸びた根は黒月で受け、内部の原光を吸い取って動きを鈍らせた。

 三人は少しずつ、樹の精霊王へ近づいた。


◆ 森の中心へ


 一本の木を越えるたび、次の木が立ち上がる。

 セトは足を止めなかった。

 白炎で正面を開き、黒月で横から来る枝を受ける。

 シアは焼け残った根を炎で断ち、ネアは外側へ流れる原光を少しずつ逸らした。


「あと少しです」


 樹の精霊王まで、十数歩。

 その間へ、太い幹が三本並んで立ち上がった。

 セトは白炎を横へ振る。

 三本とも切れた。

 倒れる前に、幹の表面から枝が伸びる。

 枝同士が絡まり、新しい壁になる。


「切ったものを、そのまま使っている」

「増殖そのものが防御になっています」


 ネアが黒月へ力を加えた。

 壁の一部から原光が抜ける。

 そこだけ成長が止まり、シアの炎が穴を広げた。


◆ 何度でも生える


 穴を抜けると、足元から若木が伸びた。

 セトは身をひねって避ける。

 白刃で幹を切る。

 切られた幹は倒れず、根元から横へ曲がり、別の木へ絡み付いた。


「面倒」


 シアがまとめて焼く。

 炎の向こうで、また芽が出る。


「樹の精霊王自身を押さえれば、流れを弱められる可能性があります」


 ネアが言った。


「でも、近づくまでに外が森になる」

「ええ」

「なら一気に抜く」


 セトは白刃と黒刃を消した。

 シアを見る。


「シア」

「分かった」


 シアの身体が赤橙色の光へ変わった。



※第34話「樹海を広げる王」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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