(二)何度でも生える
◆ 役割の外
「森は、多くの生命を受け入れる」
「すべてではありません」
ネアが答える。
「今の世界には、森になってよい場所と、森にしてはいけない場所があります」
「誰が決めた」
「そこで暮らしている者たちです」
「生命を増やす役割よりも優先されるのか」
「今ある生命を守ることも、同じくらい必要です」
樹の精霊王は、しばらくネアを見た。
その足元では、根が絶えず外側へ伸びている。
「役割を捨てろとは言っていない」
セトが言う。
「森を増やす場所を選べ」
「木のない大地がある」
「そこに何があるかを先に見ろ」
「森にすれば、生命が増える」
同じ答えへ戻った。
理解できないのではない。
樹の精霊王にとっては、役割の方が先にあり、その外側から世界を見る理由がなかった。
◆ 止めるための炎
「今のまま広げるなら止める」
セトが白刃を構えた。
樹の精霊王の周囲で、根が持ち上がる。
「森を妨げる者は、森の外へ出す」
「自分から止まるつもりはない?」
シアが尋ねる。
「ない」
「なら燃やす」
赤橙色の炎が、シアの両腕を覆った。
根の壁が三人へ押し寄せる。
シアは正面から炎を放った。
熱の波ではない。
根と枝だけを狙った炎が、壁の中央へ穴を開ける。
セトとネアが、その隙間を抜けた。
シアが続こうとした時、燃えた根の下から新しい根が持ち上がった。
「もう戻った」
「まだ増えています」
◆ 焼いた後
シアは炎を広げた。
新しく生えた木々が、まとめて赤く染まる。
幹が炭になり、枝が崩れ、空が見えた。
火を止めた直後、黒い地面が割れた。
芽が並んで顔を出す。
最初の葉が開く前に、隣から別の木が伸びた。
「焼いた分より多い」
「樹の精霊王から、地面全体へ力が流れています」
ネアの線は、一本の根だけを追えなかった。
森のあらゆる場所へ分かれ、土の下を通り、離れた場所で新しい木を作っている。
「火との相性自体は悪くありません。生えたものは焼けています」
「でも、焼くより生える方が速い」
「ええ」
炎は確実に森を削っている。
それでも、削った面積以上に森が広がっていた。
◆ 広がる場所
「外側も動いています」
ネアが振り返った。
森の外へ伸ばしていた銀青色の線が、大きく揺れる。
「街道だけではありません。畑の側へも根が伸びています」
「ここで燃やしているのに?」
「樹の精霊王は、ここだけを動かしているわけではありません」
シアが中央を焼いている間にも、森の端では木が増えている。
樹の精霊王へ近づけば、外側を止める者がいなくなる。
外側へ戻れば、樹の精霊王へ届かない。
「先に端を焼く」
シアが森の外へ向こうとする。
「それでは、こちらが再び塞がれます」
「両方やる」
「今の位置から両方はできません」
シアは一度、樹の精霊王を見た。
樹の精霊王は動いていない。
動かなくても、森全体が広がっていた。
◆ 白炎と黒月
「人型のまま押す」
セトは右手に白刃、左手に黒刃を作った。
シアの炎が白刃へ重なる。
白い刀身が赤く染まり、炎の刃が前方へ伸びた。
ネアの月の力は黒刃へ流れ、周囲の原光を吸い寄せる。
「新しい根を黒刃で崩す。シアは切った場所を焼け」
「分かった」
「外側の流れは、わたしが見ます」
セトが白炎を振る。
見えている刀身より先で、木々が斜めに切れた。
切断面へ炎が入り、再び芽が出る前に焼く。
左から伸びた根は黒月で受け、内部の原光を吸い取って動きを鈍らせた。
三人は少しずつ、樹の精霊王へ近づいた。
◆ 森の中心へ
一本の木を越えるたび、次の木が立ち上がる。
セトは足を止めなかった。
白炎で正面を開き、黒月で横から来る枝を受ける。
シアは焼け残った根を炎で断ち、ネアは外側へ流れる原光を少しずつ逸らした。
「あと少しです」
樹の精霊王まで、十数歩。
その間へ、太い幹が三本並んで立ち上がった。
セトは白炎を横へ振る。
三本とも切れた。
倒れる前に、幹の表面から枝が伸びる。
枝同士が絡まり、新しい壁になる。
「切ったものを、そのまま使っている」
「増殖そのものが防御になっています」
ネアが黒月へ力を加えた。
壁の一部から原光が抜ける。
そこだけ成長が止まり、シアの炎が穴を広げた。
◆ 何度でも生える
穴を抜けると、足元から若木が伸びた。
セトは身をひねって避ける。
白刃で幹を切る。
切られた幹は倒れず、根元から横へ曲がり、別の木へ絡み付いた。
「面倒」
シアがまとめて焼く。
炎の向こうで、また芽が出る。
「樹の精霊王自身を押さえれば、流れを弱められる可能性があります」
ネアが言った。
「でも、近づくまでに外が森になる」
「ええ」
「なら一気に抜く」
セトは白刃と黒刃を消した。
シアを見る。
「シア」
「分かった」
シアの身体が赤橙色の光へ変わった。
※第34話「樹海を広げる王」は全五回です。
続きます。
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