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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第34話 樹海を広げる王

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(一)森で覆う役割

◆ 閉じる道


 森へ入ってすぐに、後ろの道が見えなくなった。

 セトが切った細い枝の根元から、二本、三本と新しい芽が伸びている。

 芽は瞬く間に太くなり、葉を開き、三人が通った隙間を塞いだ。


「帰り道がなくなった」


 シアが振り返る。


「正確には、元の道がなくなりました」


 ネアは銀青色の線を後方へ伸ばした。

 線は木々の間を抜け、森の外まで続いている。


「方角は分かります。戻れなくなったわけではありません」

「また切ればいい」

「切っている間にも生えます」


 セトは白刃を下げた。

 切り口から伸びる枝は、すでに腕ほどの太さになっている。

 普通の木が育っているのではない。

 樹の精霊王が、森そのものを作り続けていた。


◆ 古い森と新しい森


「全部、今できた木ではありません」


 ネアが前方を調べる。

 太い幹に苔が付き、根元に小さな巣がある木もあった。

 それらは、以前からこの場所にあった森だ。

 一方で、街道を割って生えた木は、同じ太さでも樹皮が滑らかだった。

 根は地面の表面近くへ広がり、道や畑の土を押し上げている。


「前からある木と、増やされた木は分かるか」


 セトが尋ねる。


「原光の流れを見れば、ある程度は。新しい木には、今も樹の精霊王から力が流れ込んでいます」

「なら、新しい方だけ焼く」


 シアが言った。


「できれば、です」

「できる」


 シアの掌に小さな炎が灯る。

 ネアが示した若木へ触れると、炎は幹だけを走り、隣の古い木へ移る前に消えた。

 黒くなった幹が崩れる。

 その下から、新しい芽が顔を出した。


「すぐ生える」

「だから、できればと言いました」


◆ 押し返す森


 進むほど、木々の動きは明確になった。

 根が地面から持ち上がり、三人の前へ壁を作る。

 枝が絡み合い、頭上を塞ぐ。

 先端は尖っていない。

 セトたちの身体を貫こうとするのではなく、押し返そうとしていた。


「来るなと言っている」


 シアが根を蹴った。

 根はしなり、さらに太いものがその後ろから重なる。


「報告どおりです」


 ネアが言う。


「人間を追って攻撃しているのではありません。自分の作業を妨げる者を、森の外へ出そうとしています」

「十分危険だ」


 セトは白刃で根を切った。

 切断された先が地面へ落ちる前に、その両側から細い根が伸びる。

 一本を切るたび、塞ぐものが増えていく。


「止めるなら、近づくしかない」

「ええ。本体へ話が届く位置まで進みます」


◆ 樹皮の衣


 森の奥に、不自然に開けた場所があった。

 空き地ではない。

 新しい木々が円を描くように外側へ倒れ、中央だけを残していた。


 その中央に、人の姿をした存在が立っている。

 身にまとっているものは、布というより樹皮に近かった。

 周囲の根と枝は、その存在を避けるように伸び、外側へ向かっている。


「樹の精霊王です」


 ネアが足を止めた。

 樹の精霊王も三人を見る。

 敵意は感じない。

 ただ、セトたちの背後では、入ってきた道がさらに木々へ飲まれていた。


「言葉は通じるか」


 セトが尋ねる。


「通じる」


 樹の精霊王は答えた。


「なら聞く。何をしている」

「生命を増やしている」


 迷いのない答えだった。


◆ 森で覆う役割


「大地には、生命が必要だ」


 樹の精霊王は地面へ手を向けた。

 指先の下から芽が出る。

 芽は低い木となり、枝を広げた。


「木が増えれば、森になる。森が広がれば、生命が増える」

「ここには街道があった」


 セトが言う。


「畑も家もある」

「木のない場所へ、木を増やした」

「人が使っている場所だ」

「人も生命だ。森の中で生きればいい」


 樹の精霊王にとって、街道と森の違いは重要ではなかった。

 木が少ない場所には、木を増やす。

 大地を覆い、生命が生まれる場所を広げる。

 それが自分の役割だと、最初から知っている。


「世界を森だけにするつもりか」

「森は多い方がいい」


◆ 畑にある生命


「畑にも植物はある」


 シアが言った。


「人間が食べるために育てている」

「同じものだけが並んでいる」


 樹の精霊王は答えた。


「森には、より多くの生命が生まれる」

「増えればいいわけではありません」


 ネアが一歩前へ出る。


「畑で育てられた作物によって、多くの人間が生きています。街道は、食料や薬を運びます。そこを森に変えれば、今いる生命が失われます」

「森にも食べ物はある」

「同じ数の人間を養えるとは限りません」

「人間の数を保つことが、生命を増やすことなのか」


 樹の精霊王の声に、怒りはなかった。

 本当に分からないため、尋ねている。


「人間だけではない」


 セトが言った。


「草原で生きるものもいる。畑に来るものもいる。森になれば生きられないものもいる」



※第34話「樹海を広げる王」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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