(六)森に消えた街道
◆ 名前のない宝石
「人間側での呼び名はないのか」
兵士が尋ねた。
「分霊核とは呼ばれていないでしょう」
ネアが答える。
「地域ごとに、違う名が付いている可能性があります」
削れない赤玉。穴の開かない黒石。傷の付かない宝石。
持ち主や商人が、見たままの名を付けているかもしれない。
「名前で探すより、特徴で探した方がよいです」
「しかし、力がない宝石の記録となると、かなり多そうです」
「ええ」
ネアは否定しなかった。
人間にとって、分霊核は強力な遺物ではない。
所有しているだけでは、何も起こらない。
だからこそ、重要な記録へは残らない。
「役に立たないから、どこにでも行く」
シアが言った。
「売られ、譲られ、飾られ、忘れられます」
「厄介だな」
セトは条件を書いた紙を兵士へ渡した。
◆ 先に止めるもの
詰め所の外で、馬の足音がした。
森の側から戻った兵が、泥を跳ね上げながら駆け込んでくる。
「街道の第三標識が森に入りました!」
「昨日は第二標識までだったはずだ」
「今朝、第三の手前に若木が出ました。先ほど確認した時には、道の両側が完全に木で塞がれています」
地図の上で、森の外縁がさらにこちらへ動く。
「人は残っているか」
セトが尋ねる。
「周辺の家は避難済みです。畑に残っていた者も移動させました」
「樹の精霊王は?」
「森の奥で人影を見たという報告があります。ただ、近づけません」
セトは立ち上がった。
分霊核を探す条件は整った。
しかし、見つかるまで森が待つことはない。
「紙は各国へ回してくれ。俺たちは森へ行く」
「分霊核なしで?」
シアが尋ねる。
「今までどおりだ」
「なら焼く」
「話す前に森全部を焼かないでください」
ネアが言った。
◆ 森に消えた街道
詰め所から先へ進むほど、道の上へ落ちる影が増えた。
最初は、街道脇に若い木が数本立っているだけだった。
その先では、根が土を持ち上げ、踏み固められた道を割って枝が伸びている。
さらに進むと、街道そのものが見えなくなった。
太い幹が道を塞ぎ、その奥には、以前から森だったように木々が連なっている。
「ここまで来れば分かる」
シアが前を見る。
「いる。もっと奥」
ネアも銀青色の線を森へ伸ばした。
線は木々の間へ入り、急速に増え続ける原光へ触れる。
「樹の精霊王です。森全体へ力を流しています」
目の前の森は、自然に育ったものではない。
幹も枝も根も、今も伸び続けていた。
風が吹いていないのに、葉が一斉に揺れる。
その奥から、新しい木が土を割って立ち上がった。
「話ができそうか」
セトが尋ねる。
「近づかなければ分かりません」
「なら行く」
「森を焼けば出てくる」
シアの手に赤橙色の光が集まる。
「呼び出すために全部焼かないでください」
「少しだけ焼く」
「まず進みます」
ネアが木々の間へ銀青色の線を伸ばし、原光の流れが比較的弱い場所を探した。
「こちらなら通れます。ただし、道が残っているとは思わないでください」
セトは白刃を作り、行く手を塞ぐ細い枝だけを切った。
分霊核を探す方法は分かった。
だが、候補となる場所の情報が集まるまで、それを探し始めることはできない。
今は、目の前で広がり続ける森を止める方が先だった。
三人は、木々に飲まれた街道へ入った。
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