(四)返らない場所
◆ 価値が定まらないもの
「削れないなら、壊れない宝石として高く売れないのか」
セトが尋ねる。
「大きさと見た目を好む者には価値があるでしょう」
ネアは小石を指先で転がした。
「ですが、加工できないものは、望む形へ仕立てられません。魔道具にも使えず、持っていても特別な効果はない。高価だと考える者と、使い道がないと考える者に分かれます」
「価値が決まっていない」
「ええ。だから、同じ物でも扱われ方が変わります」
ある場所では、珍しい宝石として箱へ収められる。別の場所では、加工に失敗した石として職人の棚へ置かれる。子供がきれいな石として拾い、そのまま家へ持ち帰っている可能性もある。
「強い力を出さないことが、一番探しにくい」
シアが言った。
「ええ。危険でも、役に立つものでもないため、同じ扱いが続きません」
◆ 属性の色
「色は同じなのか」
「系統によって違います」
火の分霊核なら赤。月の分霊核なら黒。風なら緑。
「雷は?」
「おそらく、雷の性質に近い色です。正確な見た目は、リグの知識を確認した方がよいでしょう」
「赤い小さい玉なら探しやすい」
シアが言う。
「赤い宝石は多いです」
「黒は少ない」
「赤よりは絞れるかもしれません。ただ、色だけでは足りません」
赤く、小さく、丸い。
それだけなら、似た石はいくらでもある。
分霊核には、普通の宝石にはない特徴がある。
「削れないことと、力がないこと」
セトが言う。
「ええ。魔道具として反応しないのに、人間の道具では加工できない。その組み合わせが手掛かりになります」
◆ 薄く広げる
「場所が分からないなら、どうやって探す」
セトが尋ねる。
ネアは街道の中央へ立った。
「同じ属性の精霊力を、広い範囲へ薄く広げます」
銀青色の光が、ネアの足元から円状に伸びた。
攻撃ではない。
草を倒さず、土を削らず、木の幹と石の表面をなぞって遠くへ進む。
「触れた場所から返ってくる流れを見ます」
「反射か」
「近いです」
薄く広がった月の力は、地面や木々へ触れ、わずかに形を変えて戻ってくる。
ネアは戻る流れを一本ずつ確かめた。
「分霊核があれば、そこだけ返りません」
「吸われる?」
「ええ。空の器へ力が入ります」
「穴や空洞も、返らないんじゃないか」
セトが尋ねる。
「何もない場所では、力がそのまま先へ進みます。分霊核の場合は、一点へ吸い込まれて止まります」
壁の向こうが空いていることと、壁そのものが力を飲み込むことは違う。
「流れ方を見れば区別できます。ただ、遠すぎれば、その違いも小さくなります」
声を遠くへ投げ、返ってこない場所を探すようなものだった。
◆ 返らない場所
銀青色の光は、しばらくしてネアのもとへ戻った。
「あるか」
「ありません」
「範囲が狭い?」
「無制限には広げられません。薄くしすぎれば、返った流れを区別できなくなります。それに、広げた範囲が大きいほど、確認にも時間がかかります」
ネアはもう一度、先ほどより街道に沿って細長く力を伸ばした。
結果は同じだった。
「近くに月の分霊核はありません」
「次は私」
シアが前へ出る。
赤橙色の光が足元から広がった。
熱はない。
炎にもならず、草の間と石の上を薄く流れていく。
シアは目を閉じた。
「いっぱい返ってくる」
「一つずつ見てください」
「見てる」
少し後、赤橙色の流れも戻った。
「ない」
「火の分霊核も、この周囲にはないようですね」
◆ 同じ属性だけ
「ネアの探し方で、火の分も見つけられないのか」
セトが尋ねる。
「見つけられません」
「月の力を入れても、火の器は受け取らない?」
「まったく反応しないか、周囲の石と区別できない程度でしょう」
分霊核は、同じ系統の精霊王だけが扱える。
探す時も同じだった。
ネアがどれだけ広く精密に流れを見ても、火の分霊核は探せない。
シアも、月の分霊核を見つけられない。
「では、風の分霊核はフィオラしか探せない」
「ええ」
「今から呼ぶ?」
「呼びません」
フィオラは生まれたばかりで、自分の身体と力を確かめ始めたところだった。
風の精霊殿を拠点とし、各地の情報を集める役割もある。
「分霊核については伝えます。ただ、探すかどうかはフィオラ自身が決めることです」
「リグには?」
「ハルヴェンと合流した時に伝えてもらいましょう」
※第33話「宝石に見える器」は全六回です。
続きます。
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