(二)もう一つの作用点
◆ 役割へ残る器
「誰のものか分からなくても、私が使える?」
シアが尋ねる。
「火の系統であれば」
「先代より前のイフリートが残したものでも?」
「使えるはずです」
分霊核は、残した個人へ結び付いているのではない。
火、月、風といった役割の系統へ結び付いている。
そのため、どの世代が残したものでも、同じ役割を担う次代が扱える。
「私の力ではないのに、私の力として動く」
「器の形が、現在のイフリートを受け入れます。中へ蓄えるのは、見つけた後のあなたの力です」
「最初から満杯ではない?」
「残っている量は、実物を見なければ分かりません。ただ、見つけた後は、そこへ現在のあなたの力を蓄えられます」
「見つけたら、まず入れる」
「急に最大まで入れないでください」
「少しずつ入れる」
「本当に分かっていますか」
「少しずつ最大まで」
「途中で確認します」
実物がないうちから、最初の試験方法だけは決まった。
◆ もう一つの作用点
古い知識では、原初の精霊王が分霊核を複数の作用点として使っていた。
ネアは中央の石を自分に見立てた。
少し離れた場所へ、二つ目の石を置く。
「通常、わたしたちの術は、わたしたち自身を起点にします」
ネアの指先から銀青色の線が伸び、道端の草を囲んだ。
「分霊核があれば、離れた位置にも作用点を置けます。ただし、どこまでも遠くへ飛ばせるわけではありません。知識では、本人の周囲五~十メートル程度です」
二つ目の石からも線が伸びたように、別の角度から草を囲む。
「本体で攻撃しながら、分霊核で防御する。正面から相手を押さえながら、横から別の術を加える。離れた場所の術を維持しながら、自分は動く。そうした使い方ができます」
「分身か」
「違います」
「自分が二人になる?」
「なりません」
「手が増える」
シアが言った。
ネアは少し考える。
「その方が近いです」
分霊核は自分で判断しない。
精霊王が別の場所へ置いた、もう一つの手に近かった。
「例えば、セトが正面から来るとして」
ネアは一つ目の石をセト、二つ目を自分、三つ目を分霊核として並べた。
「わたしがセトの攻撃を止めれば、その間は別の術へ意識を回しにくくなります」
三つ目の石を、セトに見立てた石の横へ動かす。
「分霊核に防御を維持させれば、わたし自身は別の位置を動かせます。反対に、本体で防御しながら、分霊核を攻撃の起点にもできます」
「相手は、ネアだけを見ていればいいわけではなくなる」
「ええ。攻撃の威力が同じでも、見る方向と対処する数が増えます」
セトは地面の三つの石を見た。
一人の精霊王が、一度に二つの場所へ力を置く。
古代兵器を二体同時に相手にした時、ネアが戦術の幅が広がると言った意味が分かった。
◆ 増えるもの
「一つあれば、力も二倍になるのか」
セトが尋ねる。
「単純にはなりません」
ネアは三つ目の石を置く。
「分霊核は、精霊力を蓄えられます。持てる総量は増えます」
「一度に出せる量は?」
「器が増えただけで、本人の制御や一つの術の限界まで自動的に上がるわけではありません」
大きな一撃を一度だけ放つ力が、急に倍になるわけではない。
しかし、本体とは別に力を残しておける。
一度目の攻撃の後も、分霊核に蓄えた力を使える。
防御へ力を回しながら、本体側の攻撃を止めずに済む。
「強くなるというより、続けられることと、同時にできることが増えます」
「それは強くなるんじゃないか」
シアが言う。
「結果としては強くなります。ただ、同じ一撃が何倍にもなるという意味ではありません」
「面倒な分け方だ」
「戦い方を間違えないためには必要です」
※第33話「宝石に見える器」は全六回です。
続きます。
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