(一)前に聞いた名前
◆ 森へ向かう道
風の精霊殿を出た後、セトたちは森が広がっている地域へ向かった。
報告では、街道が一晩で木々に覆われている。
切り開いても数時間で元へ戻り、昨日まで畑だった場所にも若い木が生え始めていた。
まだ現地までは遠い。
街道の両側には、低い草原と畑が続いている。
シアは何度か遠くを見たが、樹の精霊王の気配は感じ取れなかった。
「もっと近づかないと分からない」
「報告された範囲も広がっています。昨日の位置を基準にはできません」
ネアは地図へ銀青色の線を伸ばし、報告された場所を順に結んだ。
線は街道の先で大きく膨らむ。
「このまま進めば、今日中には外縁へ着く」
セトが言う。
「その前に、考えておきたいことがあります」
ネアは地図から線を戻した。
「分霊核を探しましょう」
◆ 前に聞いた名前
セトは、その言葉を知っていた。
「前にも聞いたな」
「覚えていましたか」
「古代兵器を倒していた時だ」
二体の兵器を相手にし、兵士たちへ負傷者が出た時だった。
ネアは、分霊核があれば戦術の幅が広がると言った。
セトが何なのか尋ねても、今は使えないものだとして説明しなかった。
「古代兵器を倒した後も必要なら、説明すると言っただろ」
「ええ」
「説明されていない」
「必要になったので、今から説明します」
ネアは何も問題がないように答えた。
「遅い」
シアが言う。
「あなたも説明しませんでした」
「私は、ネアが説明すると思っていた」
「俺もだ」
「二人とも、その後は尋ねなかったでしょう」
古代兵器をすべて破壊した後、すぐに精霊王たちの失踪を追うことになった。
分霊核の話を思い出す余裕はなかった。
◆ あの時は探せなかった
「古代兵器の時に役立つなら、なぜ探さなかった」
セトが尋ねる。
「場所が分からなかったからです」
「今も分からないんだろ」
「ええ。しかし、状況が違います」
古代兵器は、世界中から原光を吸い上げていた。
どこにあるかも分からないものを探している間にも、森は枯れ、精霊術は使えなくなり、兵器は動き続ける。
「あの時は、探す時間を兵器の破壊へ使う必要がありました」
「今は時間がある?」
シアが尋ねた。
「目の前の森を放置できるほどではありません」
「ない」
「ですが、次代の精霊王を一人止めれば終わる問題でもありません」
氷、樹、土、晶。
すでに四つの地域で異変が起きている。
倒せば、同じ役割の次代がまた生まれる。
「被害を止めることと、今後のために探すことを並行します」
「今すぐ寄り道をするわけではないんだな」
「ええ。まず、何を探すのかを共有します」
◆ 分かれ残ったもの
三人は街道脇の木陰で足を止めた。
ネアは地面から小さな石を三つ拾う。
「分霊核は、過去の精霊王の力の一部です」
「前代の力か」
「前代とは限りません」
精霊王が消滅した時、その役割と力のすべてが次代へ渡るとは限らない。
一部が世界へ散らず、小さな球状の器として残ることがある。
「それが分霊核です」
ネアは一つ目の石を中央へ置いた。
「いつの精霊王が残したものなのか、どのような条件で生まれるのかまでは分かりません」
「精霊王が死ぬたびに一つできる?」
シアが尋ねる。
「そのような知識はありません。毎回残るなら、もっと多く存在するはずです」
「どれくらいある」
「それも分かりません」
「分からないことが多い」
「見たこともありませんから」
ネアの答えに、セトは石から顔を上げた。
◆ 誰かではない
「ネアも見たことがないのか」
「ありません。知識として知っているだけです」
「私は少しだけ知っている」
シアが言う。
「丸い。周りに浮かせる。力を入れておける」
「おおむね合っています」
「先代の記憶も入っている?」
「いいえ」
ネアははっきり否定した。
「魂も、人格も、記憶もありません」
過去の精霊王が、そのまま小さな球へ残っているわけではない。
誰かの考えが聞こえることもない。
役割を継ぐ次代へ命令するものでもない。
「力を通し、蓄え、別の場所で作用させるための器です」
「では、見つけても名前を付ける必要はない」
シアが言う。
「付けても返事はしません」
「石と同じか」
「普通の石よりは使えます」
「なら、少し違う」
シアは納得した。
※第33話「宝石に見える器」は全六回です。
続きます。
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