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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第32話 フィオラ

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(六)最初の記憶

◆ 間に立つ者


「私が、ほかの精霊王へ説明します」


 フィオラが言った。


「すぐに四か所を回るつもりか」


 セトが尋ねる。


「いいえ。今のわたしは、自分の力をどの程度扱えるかも分かっていません」

「それが分かっているなら安心した」

「シアさんとは違いますから」

「私も分かっている」

「分かっていて試します」


 ネアが訂正する。

 フィオラは少し考え、精霊殿の外へ目を向けた。


「ここを拠点にします」

「風の精霊殿を?」

「はい。人間の村へ行けば、ミレナさんと混同されます。それに、人間としての家へ戻るのは違います」


 風の役割を捨てるつもりもない。

 役割だけになり、人間の生活を無視するつもりもない。


「ここで今の世界を学びます。各地の報告も集めます。ほかの次代と会える時には、役割を捨てろではなく、今の世界で役割を果たす方法を一緒に考えます」

「人間と精霊王の間に立つのか」

「どちらかの側に立つのではなく、両方が残る場所を探します」


◆ 精霊殿を拠点に


「ここで一人で待つのか」


 セトが尋ねる。


「最初は、そうします」

「危険がないとは限らない」

「分かっています。近くの村へも、自分が新しい風の精霊王だと伝えます」

「いきなり行って信じてもらえるか?」


 シアが尋ねる。


「人へ説明することは、シアさんやネアさんより慣れています」

「生まれたばかりなのに?」

「ミレナさんの記憶がありますから」

「そこは使うんだ」

「持っているものを使わない理由はありません。ただし、それを自分の経験と間違えないようにします」


 ネアは少し考え、うなずいた。


「各国からの報告を、ここにも送ってもらいましょう。フィオラが状況を整理し、次代の精霊王へ伝える内容を考える」

「俺たちは、実際に被害を止めながら状態を確かめる」


 セトが続ける。


「役割分担ですね」

「そうだ」

「分かりました。ここを、戻ってこられる場所にします」


 風の精霊殿は、役割のために残っていた場所だった。

 その日から、フィオラ自身の拠点にもなった。


◆ それぞれの続き


 ミレナは精霊殿の入口に立った。

 外から入る風が、二人の髪を同じ方向へ揺らす。

 色は違う。

 揺れ方も違った。


 ミレナの髪は風が止まれば下りる。

 フィオラの毛先は、風が弱まった後もわずかに揺れていた。


「また来てもいいですか」


 ミレナが尋ねる。


「もちろんです」

「私の記憶について、聞きたいこともありますよね」

「あります。でも、それだけではありません」


 フィオラはミレナを見る。


「わたしが持っているのは、風の役割が離れるまでの記憶です。その後のミレナさんを、わたしは知りません」

「まだ一か月です」

「それでも、わたしにはない時間です」

「では、次に来た時に話します」

「はい。わたしも、フィオラとして過ごしたことを話します」


 同じ記憶から始まっても、二人は別の続きを持つ。

 ミレナは人間として村へ戻る。

 フィオラは風の精霊王として、精霊殿に残る。


◆ 最初の記憶


 翌朝、セトたちは精霊殿を出た。

 最初に向かうのは、森が広がっている地域だ。

 ミレナは村へ戻り、ハルヴェンとリグは各国へ方針を伝える。

 フィオラは、精霊殿の入口で三人を見送った。


「無理に一人で動くな」


 セトが言う。


「はい。まずは、この身体と風の流れを確かめます」

「何かあったら、シアかネアへ念話を送れ」

「今なら、わたしからも届くと思います」

「細かい話は難しいですけど、危険があることと、おおよその方角くらいなら伝えられます」

「それで十分だ」


 フィオラが笑う。

 セトたちが見えなくなった後も、風はしばらく同じ方角へ流れていた。

 フィオラは、自分の名前をもう一度口にする。


「フィオラ」


 その名前を呼んだ記憶は、ミレナから受け継いだ思い出のどこにもない。

 精霊殿で出会った者たち。

 ミレナと交わした言葉。

 自分でここに残ると決めたこと。

 それはすべて、生まれてからフィオラが得たものだった。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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