(五)選び直すこと
◆ 残っているつながり
「フィオラは、剣にもなれるのか」
シアが尋ねた。
ミレナの表情がわずかに固くなる。
ネアはフィオラとセトの間へ線を伸ばした。
「つながりの形はあります」
「では、なれる?」
「可能性は高いです。ただし、同じ形があることと、成立することは別です」
フィオラはセトを見る。
「わたしは、セトさんへ身を預け、翔嵐になったことを覚えています」
「それは、私が選んだことです」
ミレナが言った。
「はい」
フィオラはうなずく。
「その時の信頼も、安心したことも覚えています。でも、それを理由に、今のわたしもすでにセトさんを選んでいることにはしたくありません」
「分かった」
セトはすぐに答えた。
「なら、今は試さない」
「いいんですか」
「決めていない相手に、自分を預けろとは言えない」
「ありがとうございます」
「剣にならないと困るわけでもない」
「今は、ですね」
フィオラは少しだけ笑った。
◆ 選び直すこと
「同じ相手を選ばなくてもいいんですよ」
ミレナが言った。
フィオラは意外そうにミレナを見る。
「私の記憶があるから、同じように考えなければならないわけではありません」
「でも、ミレナさんはセトさんを信頼しています」
「はい。それは今も変わりません」
ミレナはセトを見る。
「でも、私が信頼していることと、フィオラさんが信頼することは別です」
「さんはいらないと思います」
「では、フィオラ」
「はい」
「同じ選択でも、違う選択でも、自分で決めてください」
フィオラはしばらく答えなかった。
受け継いだ記憶の中では、すでに答えが出ている。
その答えを使えば、迷う必要はない。
しかし、それではフィオラが選んだことにはならなかった。
「自分で確かめます」
フィオラは言った。
「セトさんが、記憶の中と同じ方なのか。わたしが同じように自分を預けたいと思うのか」
「ああ」
「急がなくていい」
セトの答えも短かった。
◆ 今の世界を知る王
ネアは机代わりの石台へ、持ってきた報告書を広げた。
「ほかの次代について、何か分かりますか」
フィオラは四枚の紙へ目を通す。
「氷、樹、土、晶。役割としては知っています」
「本人たちのことは?」
「知りません。前代がどのような者だったかも、記憶としては残っていません」
「人間の町や畑については」
「分かります」
フィオラは森が広がった地域の報告を指で追う。
「街道が塞がれれば、人が移動できなくなります。畑が森になれば、次の季節の食料が減ります。森が増えること自体が悪いのではなく、増やしてよい場所と、残さなければならない場所があります」
「今の世界を知っている」
シアが言う。
「ミレナさんの記憶を通して、ですが」
「それでも、ほかの次代にはないものです」
ネアは報告書を重ねた。
「創世期の役割と、現在の人間の生活。その両方を最初から理解できる精霊王は、今のところフィオラだけです」
◆ 風が見る現在
フィオラは手を上げた。
精霊殿を通り抜けていた風が、掌の上へ集まる。
強い風ではない。
外にある木々の間を抜け、道を進み、遠くの人の声や火の熱を避けて戻ってきた細い流れだった。
「村があります」
フィオラが言う。
「ここから遠くありません。畑があり、家畜もいます。風を強く動かせば、土が乾き、屋根が傷みます」
「役割の知識では、そこまで分からない?」
「風を動かせば何が起きるかは分かります。でも、人が屋根を直すのにどれだけ手間がかかるか、畑が一度駄目になれば次まで待たなければならないことは、人間の記憶から分かります」
フィオラは掌を閉じた。
集まった風は、元の流れへ戻る。
「ほかの次代にも、役割を弱めろとは言いません。役割の先に何があるかを、知ってもらいます」
「それで止まると思うか」
セトが尋ねる。
「分かりません。わたしも生まれたばかりですから」
それでも、自分と同じ次代だからこそ届く言葉があるかもしれない。
※第32話「フィオラ」は全六回です。
続きます。
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