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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第32話 フィオラ

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(二)同じ顔

◆ 風の精霊殿


 山の斜面を回り込んだ先に、石造りの建物が見えた。

 壁には大きな開口部がいくつもあり、どの方角から吹いた風も、中を通り抜けるように作られている。


「風の精霊殿です」


 ネアが言った。


「知っているのか」

「役割の知識にあります。わたしが来たことはありません」

「私も、来た記憶はありません」


 ミレナが建物を見上げる。

 それでも、入口の向こうに何があるのかを知っているような感覚があった。

 記憶ではない。

 かつて自分の中にあったものが、そこを知っていた痕跡だった。


 風は精霊殿へ入る。

 セトたちも後を追った。

 中央には、天井まで抜けた広い空間があった。

 床には砂や枯れ葉がほとんどない。

 長く使われていなかったはずの場所を、風が少しずつ外へ運んだらしい。


 その奥に、一人の女性が立っている。

 淡い緑色の髪。

 白と淡緑色の軽い衣装。

 背を向けた姿を見て、セトは隣を歩いていたミレナを確認した。


「ミレナが二人いる」


 シアが言った。


◆ 同じ顔


 女性が振り返る。

 顔立ちはミレナとほとんど同じだった。

 瞳は銀緑色だった。

 髪の色と服が違う。

 それだけを見れば、風の精霊王となったミレナが、先回りして立っているようにも見える。


 しかし、流れる原光は完全に別のものだった。

 ミレナの中には、もう風の役割はない。

 目の前の女性は、全身が風の役割と結び付いている。


「お待ちしていました」


 声も似ていた。

 同じではない。

 ミレナの声から、迷いや疲れを少しだけ取り除いたような、静かな声だった。


「セトさん。シアさん。ネアさん」


 女性は順に名前を呼ぶ。

 最後に、ミレナを見た。


「ミレナさん」


 わずかな間があった。


「はい」


 ミレナも答える。


「初めまして、でいいんでしょうか」

「はい。わたしは、そう考えています」


 女性はミレナと同じ仕草で、胸元へ手を置いた。


「初めまして、ミレナさん」


◆ 生まれた場所


「ここで生まれたのか」


 セトが尋ねる。


「はい」


 女性は中央の床を見る。


「最初に分かったのは、ここが風の精霊殿だということでした」

「来たことを覚えていた?」

「いいえ。これは役割の知識です」


 風がどこから入り、どこへ抜けるか。

 世界の流れを集めず、滞らせず、遠くへ返すための場所であること。

 誰かが説明しなくても、女性は知っていた。


「その次に、村の家を思い出しました」

「ミレナの家か」

「はい。こちらは記憶です」


 知っているのに、今の身体では一度も入ったことがない。

 歩いた道を覚えているのに、今の足では歩いていない。


「それで、自分がミレナさんではないと分かりました。役割の知識と、人間の記憶と、生まれてから見たものが、最初から別々にありましたから」

「それから風を送った?」

「皆さんが近くにいることは分かりました。でも、直接村へ行くのは違うと思ったので、ここへ来てもらいました」


◆ 覚えていること


「俺たちを知っているのか」


 セトが尋ねる。


「知っています」


 女性はすぐに答えた。


「セトさんと初めて会った時のことも、シアさんとネアさんと旅をしたことも、眠りの王と戦ったことも覚えています」

「創界の中も?」

「覚えています。風を束ねたことも、役割が身体から離れたことも」


 女性は自分の手を見る。


「その後、わたしはここで生まれました」

「そこまで覚えていて、ミレナではないと分かるのか」


 シアが尋ねた。


「分かります」

「どうして?」

「覚えている身体と、今の身体が違うからです」


 女性はミレナを見る。


「家族の顔も、村の家も、そこで過ごした時間も覚えています。でも、その記憶の中で生きていた身体は、今もミレナさんが持っています」


 自分は、その続きとして目を覚ましたのではない。

 風の役割が世界へ返り、次代の身体を作った後で生まれた。

 記憶は続いている。

 身体も役割も、同じ場所からは続いていなかった。



※第32話「フィオラ」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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